宝塚歌劇団の劇団員、有愛(ありあ)きいさんが9月30日、兵庫県宝塚市の自宅マンションの屋外駐車場で死亡しているのが見つかった事件で今月14日、宝塚歌劇団が会見を行い、有愛さんに長時間労働などで強い心理的負荷がかかっていた可能性が否定できないとし、「安全配慮義務を果たせていなかった」と謝罪した。有愛さんは歌劇団と業務委託契約を締結していたが、有愛さんの遺族の代理人弁護士は「実質的には労働契約だった」と主張している点も焦点となっているが、歌劇団は阪急電鉄の創遊事業本部の一部署という位置づけであるため、もし有愛さんが事実上「阪急電鉄の社員」であったのだとすれば、阪急電鉄の責任が厳しく問われることになる。今回の不祥事を通じて阪急電鉄は表立った対応をみせておらず「雲隠れ」を続けているとの批判もあり、東証プライムに上場する大企業としての姿勢が問われている。

 騒動の発端は、2月発売の「週刊文春」(文藝春秋)の報道だった。歌劇団宙組の娘役、天彩峰里が後輩の額にヘアアイロンを押し当ててやけどさせたという内容で、記事では被害者は匿名になっていたが、「NEWSポストセブン」報道によると、被害者が有愛さんであることは容易に想像できたため歌劇団内では情報をリークした犯人捜しが始まり、有愛さんは気に病んでいたという。その上、有愛さんが亡くなる前日に始まった宙組の公演『Sky Fantasy!』は新トップ娘役のお披露目公演だったが、抜てきされたのは最有力候補だった天彩ではない別の団員で、「天彩はいじめ報道が響き、外された」といううわさが駆け巡り、有愛さんは「いじめ報道のせいで天彩がトップ娘役に就けなかったのではないか」と自分を責めていたという。

「常軌を逸した長時間労働」

 有愛さんの遺族の代理人は今月10日、会見を行い、遺族のコメントを発表。遺族はそのなかで有愛さんの死因について

「新人公演の責任者として押し付けられた膨大な仕事量により睡眠時間も取れず、その上、日に日に指導などという言葉は当てはまらない、強烈なパワハラを上級生から受けていたから」

「劇団は、娘が何度も何度も真実を訴え、助けを求めたにもかかわらず、それを無視し捏造隠蔽を繰り返しました」

と説明。また、

「常軌を逸した長時間労働により、娘を極度の疲労状態におきながら、これを見て見ぬふりをしてきた劇団が、その責任を認め謝罪すること、そして指導などという言葉では言い逃れできないパワハラを行った上級生が、その責任を認め謝罪することを求めます」

としていた。

 遺族の代理人は、有愛さんは上級生からヘアアイロンを額にあてられて火傷を負ったり、「下級生の失敗はすべてあんたのせい」「マインドがないのか」「うそつき野郎」などと暴言を浴びせられていたと主張しているが、14日の会見で歌劇団の木場健之理事長は

「故人へのいじめやハラスメントは確認できなかったとされており、『うそつき野郎』『やる気がない』の発言の有無は、すべて伝聞情報。実際にそのような発言があったことは確認されていない」

と否定している。これに対し遺族の代理人は、証拠となるLINEを提出したにもかかわらず報告書には記載されていないとし、「あまりにも遺族に対して失礼」「(調査報告書は)失当であり、劇団と上級生の責任を否定する方向に誘導している」と批判している。

 ちなみに歌劇団の専務理事で次期理事長、阪急電鉄の創遊事業本部副本部長でもある村上浩爾氏は会見で、パワハラやいじめがあったと主張する遺族側に対し、「そのように言われているのであれば、証拠となるものをお見せいただけるよう提案したい」と発言している。

 また、遺族側が主張している過重労働について「安全配慮義務を果たせていなかった」と認めた一方、遺族側が有愛さんが亡くなるまでの約1カ月間の時間外労働を約277時間と推計している点について、報告書は「118時間以上の時間外労働」と推計。これに対し遺族側の代理人は「実態よりも過少だ」と反論しており、有愛さんの一日あたりの睡眠時間は約3時間で、ひと月半、休日なしの連続勤務だったと主張している。