ブルガリアの著名な政治学者であり、ロシアのプーチン大統領をよく知っているイバン・クラステフ氏(Ivan Krastev)は28日、オーストリア国営放送とのインタビューの中で、ロシア軍のウクライナ侵攻で3点、欧州に大きな変化をもたらしたと指摘、①加盟国間で対立があった欧州連合(EU)27カ国がロシア軍のウクライナ侵攻問題で結束した、②スウェーデンやフィンランドが中立主義を放棄した、③戦後から続いてきたドイツの平和主義(Pacifism)が終焉を遂げた、等を挙げた。以下、各点を少しまとめてみた。

プーチン氏が犯した「3つの誤算」
(画像=NATO首脳会談、ロシアにウクライナ侵攻の即停止を要求(2022年2月25日、ブリュッセル、NATO公式サイトから)、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

ドイツの平和主義の終焉

「ウクライナ危機でドイツが目覚めた」(2022年3月1日参考)のコラムで、ドイツの戦後の安全・国防政策が根底からひっくり返ったことは報告したばかりだ。歴史の皮肉かもしれないが、保守派政党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)が主導した16年間のメルケル政権では実現できなかった課題だ。ナチス・ドイツ政権下の戦争犯罪もあって、同国では戦後から軍事活動に対しては非常に慎重だった。その安全・国防問題が中道左派「社会民主党」(SPD)と環境保護政党で平和政党を自認してきた「緑の党」が参加したショルツ政権下で急転直下、転換したのだ。国防費をGDP比2%以上に引き上げることを決め、ウクライナへの武器供給問題でも1000個の対戦車兵器と500個の携行式地対空ミサイル「スティンガー」の供給を決定した。アンナレーナ・ベアボック外相(緑の党)は、「この紛争では誰も中立であることはできない」と警告している。

この決定は、予想されたことだがショルツ連立政権の参加するSPDと「緑の党」内で大きな波紋を呼んだ。特に、「緑の党」は環境保護、平和主義が党是の政党だけに、軍事費の大幅な引き上げ、紛争地への武器供給は党の政治信条を踏み潰すと受け取られても不思議ではないからだ。同党出身のヨシュカ・フィッシャー外相(当時)が1999年、コソボ紛争で北大西洋条約機構(NATO)軍の空爆を支持し、戦後初めて連邦軍を海外に派遣したことで大問題となったことがある。ハベック経済相(副首相兼任)やベアボック外相が党内の平和主義者を如何に説得するかが注目される。