公立高の統廃合で浮いたカネで私立高へ外注しているだけ

 例えば、生徒600人規模の1校を運営する場合、国や地方が負担する予算は年約6億円といわれています。ここから保護者が負担する授業料を差し引いて計算すると、高校生1人当たりの学校予算は年85万円程度ということになります。つまり、高校生1人に85万円に予算を割いていたことになります。

 しかし、生徒数が少なくなればなるほど、学校運営にかかる経費は固定費の割合が高くなります。そこで、近隣の高校と統合してしまえば、ハコモノと呼ばれる施設を売却したり、他事業に転用することで、教育予算を節約できることになります。高校生1人にかけていた予算年85万円が半額以下の40万円になるのですから、節減効果はものすごく高いのです。

 東京では平成15年度以降、都立高校が36校閉校しています。一方、大阪は平成24年度以降、府立・市立合わせて17校が閉校または閉校予定となっています。

 統廃合を行う場合、ほとんどのケースでは、隣接する高校のうち、偏差値の高い高校を残し、そうでない高校を廃校とします。かつて「勉強は苦手だけど手に職をつけたい」と思う若者を多く受け入れてきた工業・商業高校などの専門高校等は早々に廃校対象となり、家計を支えながら学ぶ人たちを受け入れてきた定時制の課程も廃止してしまいました。

 すると、学力が低いとされる若者は行き場を失います。そして致し方なく、費用が高くなることを覚悟して近場の私立高を目指すことになります。

 これを俯瞰すると、国や地方自治体は、公共事業費の無駄を省くという名目で高校の統廃合を進め、地域の若者を私立高に託していただけといえます。高校を直営するよりも、既設の私立高に外注してしまえば、確かに節約できるからです。

 一方で、生活に困窮している世帯の子どもを救うべく始まった高校無償化(就学支援金制度)は、統廃合で浮いた予算を、公立なら年12万円、私立なら40万円程度を国の予算から支援(給付・無償化)するというものです。東京の場合、他県と比較して授業料が高いことから、私立高はさらに年8万円ほど積み増して助成されています。これ自体は決して悪い制度ではないのですが、公立高を減らして教育費を増加させておいて助成するという、マッチポンプとも見える制度であることをきちんと理解しなければなりません。

 令和4年度の東京都内の公立高は186校(生徒数12万4000人)、私立高は237校(生徒数17万2000人)です。東京は私立大学の付属高が多いという事情もあるものの、高等学校の半分以上を私立に依存しすぎている点を改善できていないのも問題です。