世界史の問題から慶應法学部が求める学生像「基礎知識を展開する論理的思考力」が見えてくる
本問が悪問と言われてしまった背景には、この時期に出題の傾向がガラッと変わったことがあると佐藤氏は推測する。
「2011年を境に、慶大法学部の世界史入試問題は様変わりしました。以前は全編50問の選択問題というふうに、知識のボリュームで攻める形式だったのですが、このあたりから正誤問題を入れてくるなど、知識の量だけでなく思考力を見る形に変わってきたのです。過去問で準備してきた当時の受験生が、形式の変化に戸惑っていたのが印象に残っています。この問題もその流れの中で、特に印象に残りやすかったのでしょう」
問題傾向の変化は、その大学が欲しい学生像を反映している。つまり慶大法学部は、基礎体力としての知識を身につけたうえで、それを応用して問題を解く論理的思考力を学生に求め始めたのだろうと佐藤氏は推測する(2025年入試から慶大法学部では論述出題が加わることになった)。他の大学についても同様のことは言えるのだろうか。
「まず、慶應が難関大だから世界史の問題が難しいのかというと、それは違います。2大難関校といえる東大も京大も世界史の問題は難しくなく、難問奇問はほぼ出ません。早稲田大は商学部・社会科学部は難問が見受けられますが、それ以外の学部はやや難程度です。これらの大学では、世界史についてはまんべんなく知識を身につけて、しっかりと大学対策をしていれば良いと考えているのでしょう。その一方で、一橋大や大阪大の世界史は難問がよく出ることで知られています。また、東洋大、専修大の一部の問題にも難問が見られます。このように、一般的な偏差値のイメージと世界史入試のレベルは合致しないものなのです」
偏差値は受験科目の平均で出ているので、世界史の難易度が偏差値通りとは限らないわけだ。過去問に目を通せば難易度は推測できるものの、その学生の学力で合格できるかどうかまでは、予備校教師でもない限りはっきりしたことはいえないだろうと佐藤氏はいう。