泥棒にも気がつかなかった!?
ーー地道な作業で業務を改善されたんですね。
下河内:娘にアレルギーがあったこともきっかけのひとつです。つねに掃除をしなくてはいけないので、まずは家を片づけないといけなかった。結婚するまで家事をほとんどしたことがなくて、へたくそだったんです。泥棒が入っても気がつかなかったほど、散らかっていました(笑)。
家を片づけていくなかで、動線も考えるようになりました。そうしたら、家事も楽になって、スッキリする。家庭でも職場でも良い影響があることがよくわかりました。
ーー泥棒が入ってもわからないお部屋、親近感がわきます。複業にはどう結びついていったのでしょうか?
下河内:面倒くさい家事や仕事をさっさと終わらせて、自分のやりたいことに時間を使えるようにしていました。心理学を学びたくて心理カウンセラーになれる学校に通いだしたとき、「こんなことが仕事になるんだ!?」と思うような職業の方がたくさんいらっしゃって、片づけを人に教えることが収入になると気づきました。
ぼんやりと「こういうことを仕事にできたらいいな」とは思っていたんですが、仕事・家事・育児をしながらあちこちに出没する私をみた人から「どうやったらそんなふうに時間を使えるの?」と聞かれることが増え、スキマ時間に家事をするノウハウをお教えするお誘いをいただくようになりました。
ーーそこからパラレルでの働き方が始まったんですね。
心理カウンセラー プロコース卒業式での下河内さん(後列左から3人目)
下河内:家事でも片づけでも、タスクを細分化していくことがコツです。1~2分で終わるようなかんたんな小さなことに優先順位をつけて順番にやっつけていくことが大事。これは仕事にも活かせました。
会社員だけではわからなかったでしょうね。家庭を持って主婦の役割を経験したことが生きています。
当時は大変でしたが、家事がへたくそで良かったと今は思います。へたくそだったから、工夫する喜びを感じることができたし、その考えを応用して、仕事や社会の課題解決に生かすこともできます。結果として成功だったり、失敗だったりはあるかもしれませんが、役に立たない経験は何ひとつありませんね。
テーブルの上のゴミを捨てるだけでもいい、これもお片づけにおけるひとつの経験であり、成功体験です。小さな成功体験を積み重ねていくと、自己肯定感が育っていきます。
ーー憧れますが、変化することを怖いようにも感じます。
下河内:生徒さんからもそういった相談をいただくことがあります。
人は変化を嫌う生き物です。現状維持は、安心できるんです。変わらなくても誰も責めません。……変わりたいのか、現状でいたいのかもやっぱりその人にしかわからない。自分に問いかけるしかないんです。
ーー27年間勤めた会社を退職することは、どう決断されたんですか?
下河内:講演や、片づけを教えてほしいという依頼がだんだんと増えていき、整理しないとわたしが「やること」全部が中途半端になってしまうような状態になったことがきっかけですね。
それでも、定年まで働くつもりだった「会社員」であることを手放すと決めるまで、何度も自分に向き合いました。年齢やさまざまな状況も考えました。会社の外の世界には「下河内優子に教えてほしい」と言ってくださる人がいることに意識を向けたときに、決断できました。
パラレルキャリア推進委員会・関西支部長としてイベントにも参加(写真右が下河内さん)
ーー捨てたことを後悔したモノはありますか?
下河内:衣類や小物から親に買ってもらった婚礼家具やお布団まで、いろいろなモノを捨てましたけど、電子レンジでパスタを茹でる容器かな。使わずに捨てたから、使ってみたかったなっていう気持ちですね。
ーー嫁入り道具は、かなり捨てづらそうです。
下河内:上等で高級な良いものでしたが、重くてかさばるのと柄が好きではなかったので軽い無地のお布団に買い直しました。自分で選んだものは、高級品ではないけれど、わたしの価値観にあっていて、とても気に入っています。