MX-30に試乗してロータリーの可能性を実感
MX-30・Rotary-EVに試乗しているとき、不思議な現象が起きた。エンジンがかかっているようにはまるで思えなかったのに、メーターパネル内の燃費計がそれまでの「—.—km/リッター」から「60.0km/リッター」に切り替わった後、コンスタントに低下していき、最終的には「22.0km/リッター」あたりで落ち着いたのである。
このとき私が選択していたのはノーマルモード。MX-30・Rotary-EVにはこれ以外にEVモードとチャージモードがある。ノーマルモードは一般的なPHEVのハイブリッドモードと考えられる。
エンジンがかかっていない(ように思えた)のに燃費データが低下していったのは、いかにも不思議。そこでマツダのエンジニアに尋ねたねたところ、こんな答えが返ってきた。
「MX-30・Rotary-EVに搭載されたエンジンの最高出力は53kWですが、モーター出力にはもっと余裕があって最高120kWを生み出せます。そこで、エンジンだけでは不足する約70kWの電力を必要に応じて車載の高圧バッテリーでカバーするのですが、バッテリーの最大出力はSOC(充電率)によっても変化します。MX-30・Rotary-EVの場合、SOCが46%のときにバッテリーの最高出力が70kWとなるので、ノーマルモードではSOC46%を維持するようにエンジンで充電しています」
この答えには心底、驚いた。私が気づかなかっただけで、試乗中にもエンジンはかかっていたのだ。
これに先立ち、エンジンがかかるとどんな振動やノイズが伝わってくるのかを確認するため、私はチャージモードを試していた。すると、「ルルルルルルッ!」となにかが勢いよく回転していることを感じさせるバイブレーションと音がかすかに認められた。ただし、ノーマルモードで走っているとき、これに類する振動やノイズは感じられなかった。だから私は「エンジンはかかっていない」と判断したのである。でも、実際にエンジンはかかっていた。なぜ、私は気づかなかったのか?
その答えは「ノーマルモードでは、エンジンの振動やノイズができるだけ小さくなる負荷領域でバッテリーを充電しているから」という。一方のチャージモードでは、設定されたSOCまで素早く充電するため、最高出力が得られる4300rpm付近でエンジンを回すという。つまり、使い方しだいでは、その存在をまったく感じないほど、8Cと呼ばれる発電用の新開発ロータリーは静粛性に優れているのである。エンジンがかかっていても純BEVのイメージで走れた。
日常はBEV。そして長距離でも電欠知らず。ロータリーが地球への優しさを実現
8Cはシングルローターであるにもかかわらず、エンジンがかかっていることをまるで気づかせないとはさすがだ。とはいえ、それでも問題は残る。燃費が決して良好とはいえないことだ。
先ほど燃費計は最終的に22km/リッターあたりで落ち着いたと記したが、これはバッテリー電力で走行した距離も含んだ平均燃費である。そこで表示された電費やSOCの変化分などから実質的な燃費を再計算すると、ロータリー単独の燃費は、約13km/リッターとの答えが得られた。この計算は必ずしも正確とはいいきれないが、カタログ記載の15.4km/リッターというハイブリッド燃費とのズレはさほど大きくない。いずれにせよ、発電用エンジンを積むMX-30・Rotary-EVの実質的な燃費は10km/リッター台半ばと考えられるだろう。
この効率の低さこそ、ロータリーエンジン最大のアキレス腱である。そして、この点だけを取り上げれば、CO₂削減が求められる現在、ロータリーエンジンが生き延びることは不可能ともいえる。
けれども、マツダの中井英二執行役員は、ロータリーエンジンの価値をこんな風に説明してくれた。「われわれの調査によると、お客さまの90%以上は平日の走行距離が100km未満で、週末にのみ最長600kmほどの遠出をします。つまり、MX-30・Rotary-EVであれば平日はピュアBEVとして、そして休日は遠距離走行が可能なハイブリッド車として使うことで、CO₂削減と使い勝手のよさを両立できるのです。しかも、ロータリーエンジンを用いずに、これと同じようなPHEVをコンパクトサイズでまとめ上げるのは、かなり難しいと思いますよ」
EVが走行時にCO₂を排出しないのは事実だ。けれども、大量のバッテリーを搭載したEVは生産時に大量のCO₂を発生する恐れがある。しかし、MX-30・Rotary-EVであれば、バッテリー容量を最小限に抑えつつ、いざというときの長距離ドライブにも対応できる。したがって、あまり遠出をしないユーザーにとっては、MX-30・Rotary-EVこそが「環境負荷がもっとも小さく、しかも使い勝手のいいクルマ」となり得るのだ。