ビッグモーターによる保険金の不正請求問題をめぐり、同社から不正請求を受けていた大手損害保険会社・三井住友海上火災保険は1日、社外弁護士などから構成される調査委員会の報告書を公表した。大手損害保険会社各社は保険契約者の事故車両をビッグモーターの修理工場に斡旋する「入庫紹介」を行う見返りとして、自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)の割り振りを受けていたが、報告書内で三井住友海上は、入庫紹介が少ない月があるとビッグモーター担当者から自賠責保険の割り振りを取り消す旨を示唆されていたことや、大手損保3社がビッグモーターに対し協議の場で不正を認めて調査委員会を設置することを提案したところ協議が急遽打ち切られたことなどを公表。また、昨年6月頃に損保会社各社がビッグモーターとの取引を停止するなかで損害保険ジャパンのみが取引を再開し保険契約シェアを拡大した際の経緯についても記述。三井住友海上と損保ジャパン、東京海上日動火災保険は協議を行いビッグモーターに対し調査委員会設置を提案する方向で調整していたが、突如、損保ジャパンが
<BMとの健全なパートナーシップ回復に重きを置くこととしたので、これ以上の調査拡大は行わず、BM の再発防止策策定の支援を行うこととし、本件内部告発以後行われていた 3 社協議から離脱する旨を通知>(報告書より)
していた事実も明かされている。報告書は、ビッグモーターによる圧力や、損保ジャパンのコンプラ軽視および契約者の保護より自社の利益を優先する姿勢を明らかにする内容となっている。
<自賠責保険の割当てを停止する対抗措置を講じる>
ビッグモーターは損保ジャパン、三井住友海上、東京海上など大手損保会社と損害保険の代理店契約を結び、ビッグモーター店舗を通じて自賠責保険などを販売していたが、すでに各社は契約終了を決定。金融庁は先月30日付けでビッグモーターの損害保険代理店としての登録を取り消している。
ビッグモーターと大手損保会社の結びつきは強固だった。前述のとおり損保各社は入庫紹介の見返りにビッグモーターから自賠責保険の割り振りを受ける立場にあり、損保各社は関係を強化するためにビッグモーターに社員を出向させていた。三井住友海上も2017年度から板金部門に合計3人を出向させていたが、報告書では同社とビッグモーターの関係性をうかがわせる記述も多数みられる。
たとえば、2020 年 11 月頃以降、ビッグモーターの修理工場で保険金不正請求が高頻度で行われている疑いがあったため、三井住友海上が当該工場への入庫紹介を停止または紹介台数を大幅に減らす措置を講じることにした際について、次のように記述されている。
<このような当社の対応等を受けて BM 社の b1 氏は、a9 氏に対し、BM の全店舗において当社への自賠責保険の割当てを停止する対抗措置を講じる旨を伝え、2021 年 1 月 28 日、MC2SCを所管する損サ部長、M3 支店長らにおいて、BM 社の b1 氏と面談した結果、当社は SKS 紹介(編注:「入庫紹介」の意味)の再開をする旨を伝えるとともに、自賠責保険の割当ての再開を依頼するなどした。これを受け、BM 社の b1 氏は、MC2SC を所管する損サ部長らに対し、BM から当社への自賠責保険の割当てを再開する旨を述べた>
また、21年4~9月に三井住友海上からビッグモーターへの入庫紹介の台数が減った際の状況について次のように記述されている。
<BMより当社が指名を受けていた他のBM店舗同様、BM07店は、当社が指名を受けていたところ、SKS 紹介台数が指名時に約束した月間台数を大きく下回っている状況にあったことを b1氏から指摘されており、早急に改善できなければ指名を取り消す旨を通告された。a9 氏は、2021年 4 月に着任した M1 支店 ME1 課長である a14 氏と相談の上、営業主管として、2021 年 4 月17 日、M4 支店の担当営業に対し、BM からかかる通告を受けたことと、このままでは BM からの自賠責保険の割当てに甚大な影響が出る上、信頼失墜により、BM07 店の指名の取消しにとどまらず、今後、BM 店舗からの指名が行われなくなり、全店の店舗獲得がストップしかねないことを知らせた>
このほかにも、21年10月に三井住友海上がビッグモーターに対し工場品質改善の申入れを行った際の様子について次のように記述されている。
<これに対し、b1 氏は、BM の修理工場の品質改善が急務である旨を理解していること等を述べた一方で、SKS が他社との比較で低調な状況であり、このままの状況では、自賠責保険や新店舗の推奨保険会社を当社に割り当てることができない旨を述べた。2022年1月25日、a14氏及びa9氏は、b1氏に対して改めてBMの修理工場の品質改善を申し入れたが、b1 氏は、自賠責保険の割当てを止めることや BM 店舗の指名取消を示唆してきた>
大手損保会社関係者はいう。
「ビッグモーターが損保各社に対し入庫紹介の数に応じて自賠責保険を割り当てていたという言い方は正しいといえば正しいが、その実態は『数を増やさなければ契約を扱わない』と露骨に伝えるもので、恫喝に近かったという実態がよく伝わってくる」