楽天グループ(G)は14日、2023年12月期連結決算(国際会計基準)を発表。最終損益が3394億円の赤字となり、5年連続の最終赤字となった。業績低迷の原因となっているのが携帯電話事業であり、同事業の営業損益は3375億円の赤字。携帯電話のサービス開始から4年が経過したが、同事業がEC事業と金融事業の利益を食いつぶす構図が続くなか、24~25年には計8000億円に上る社債の償還を迎えるため、同社の経営の先行きを不安視する見方も広まっている。

 楽天Gの23年12月期の売上収益(売上高にあたる)は前期比8%増の2兆713億円、営業損益は2128億円の赤字(前期は3716億円の赤字)。最終損益は前期の3772億円の赤字からは改善したものの、大幅な赤字となっている。主因は携帯事業だ。同事業の営業損益は3375億円の赤字で、前期の4792億円の赤字からは改善したものの、赤字解消には至らず。楽天モバイルは契約数の目標値を1200万件としているが、23年12月末時点では596万件にとどまっており、基地局設置などの設備投資費用も前の期よりは減ったものの1776億円となっており、今期も1000億円程度を見込んでいる。

 楽天Gは携帯電話事業について24年末までに単月黒字化(EBITDAベース)、25年に通期黒字化をするとの目標を示しており、黒字化の条件として契約数800万~1000万件、ARPU(一契約あたりの月間平均収入)2500~3000円が必要としている。だが、23年10~12月期のARPUは1986円にとどまっており、前四半期から60円下がっている。

 百年コンサルティング代表取締役の鈴木貴博氏はいう。

「楽天モバイルのEBITDAを24年中に単月黒字に持っていくのは難しいかもしれません。というのもEBITDAが黒字化するためには、楽天Gの試算では契約数が800万~1000万件、ARPUは2500~3000円にしなければならないといいます。今期、傘下の楽天市場出店企業を中心に法人契約の強化に力を入れたわけですが、その結果として伸びた契約数が1年間で150万回線です。23年末の596万回線(楽天モバイルMVO部分)からあと1年で200万回線の黒字化最低ラインに到達するのはかなり難しい目標です。

 というのも同時に、直近で1986円のARPUを2500円に引き上げてようやく黒字が見えてくるわけなのですが、そのためには何らかの付加サービスの値上げが必須です。楽天モバイルの基本料金は市場のボリュームゾーンである3GBから20GBまでのユーザーで月額1980円で、現状、ほぼARPUはその水準に収まっていますから、利用データ量を増やさせるのは現実的とは思えません。

 この料金体系を変えないでARPUを上げるとすれば、ひとつ考えられる手段が、無料通話アプリの『Rakuten Link』の実質有料化でしょう。たとえば電話をかけようと思った場合、30秒間CMを見ないと通話できないような形にして、それが嫌なユーザーは月額500円払ってCMを外すように仕向けるようなやり方です。それなら課金ユーザーからは500円、そうでないユーザーからも広告収入で同じくらいの追加収入を稼ぐことができるかもしれません。しかし問題は、それをやることで通話無料にひかれて楽天モバイルを契約していたユーザーの解約が進むかもしれません。つまり契約数とARPUを同時に上げていくという計画は、そもそも達成が難しいのです」

 金融業界関係者はいう。

「楽天Gは当初、携帯事業について23年中に単月黒字化すると宣言していたが、ほど遠い結果になっている。今年中に単月黒字化を果たすということは、ざっくりいうと1年以内に契約数を今より約3~6割、ARPUを約2~5割も引き上げる必要があるが、現実的とはいいがたいシナリオを発表せざるを得ないところに、いかに携帯事業が苦しい状況に置かれているかが表れている」

 5期連続で高い水準の最終赤字となっている携帯事業について、撤退を検討すべきといえるのか。もしくは、そうとはいえないのか。前出・鈴木氏はいう。

「先ほどの考察から24年の単月黒字、25年の通期黒字が難しいとすれば、最終赤字は5期連続では済まず、7期連続ぐらいまでは覚悟しなければならないかもしれません。しかし、だからといって楽天モバイルからの撤退は検討すべきではないと私は考えます。というのも、携帯事業は2兆円規模の先行投資をしたうえで長期的な収益を目指すビジネスなので、止めるといっても止め方としては他社に携帯事業を売却する以外の方法はないでしょう。

 600万回線の利用者と現在のネットワークを引き継げるのであれば、負債は引き継がない条件で1兆円程度の金額での買い手なら現れるかもしれません。国内ならソニーグループやリクルートHD、任天堂、セブン&アイHDなど、海外ならアマゾン・ドット・コムやアリババ、テンセントなど買い手は出現すると思います。

 しかし売却資金で借金の一部を返したとしても、まだ8000億円もの有利子負債が残ります。好調な本業の利益を考えれば企業存続できるレベルの負債かもしれませんが、悪影響がもうひとつあります。結果として売却先が楽天市場に対抗する新たなIT競合になるリスクが生まれてしまいます。そういった事柄を考慮すると、厳しいからといってモバイル事業撤退をするのはいい選択肢とはいえないでしょう」

「最強家族プログラム」

 楽天Gが契約者増の起爆剤として今月打ち出したのが「最強家族プログラム」だ。家族で「Rakuten最強プラン」に加入すると、1回線あたり月額110円(税込、以下同)の割引が適用されるというもの。

      通常(月額) 割引後(月額)
・3GBまで  1078円     968円
・20GBまで 2178円     2068円
・無制限  3278円     3168円

 紹介者には家族一人を紹介するごとに7000ポイント、被紹介者には1万3000ポイント(MNPの場合)が還元されるため、家族6人で加入すると計10万ポイントが還元される。仮に全員が3GBまでのプランを契約すると968円×6人×12カ月で6万9696円となるため、実質1年間無料となる計算だ。

「そもそも楽天モバイルを選択するユーザは『安さ』を重視しており、自ずと楽天モバイルのARPUは他キャリアと比較して低くなる。そのため楽天モバイルはARPUの底上げを図ろうとしているが、今回の『最強家族プログラム』は逆にARPUの低下につながる。14日の会見でその点について質問を受けた楽天Gの三木谷浩史会長は『必ずしもARPU低下にはつながらないと思っている』と、暗にARPUの低下の可能性があることを認める発言をしている。楽天モバイルとしてはARPUを引き上げたい一方、ECの楽天市場や金融をはじめとする楽天の各種サービスとの相乗効果を高めるにも、また基地局設置などに投下した設備投資の効果を高めるためにも、大幅に契約者を増やさなければならないため、さらにお値打ち感のあるプランを打ち出さざるを得ないという板挟みの状況になっている」(大手キャリア関係者)