EU随一の経済力を誇るヨーロッパの盟主・ドイツ。そんな優秀な国では、どんな人材を育てているのだろうか。ドイツの教育制度は、中学校や高校という概念がなく、日本とはまったくちがい、小学校の後にすでに進路が別れることになるのだ。
技術大国ドイツの義務教育
日本の教育システムでは、学生が自分の将来を考える場合、中学や高校の卒業近くなってからそれぞれが考えることが多い。中学生のときに、大学に行くつもりがない生徒は、手に職を就けようと工業・商業高校に行くかもしれないし、すぐに就職するつもりがないという理由で進学する高校生もいる。
だがドイツでは、10歳で人生が決まる教育システムを行っている。小さな頃から自分のキャリアというものと向き合うのだ。
州によって教育システムが異なるが、多くの場合、6歳から4年間はみな基礎学校(Grundschule)で学ぶ。小学校は4年制だ。さらに半日制の学校もあるので昼過ぎには子供達は帰宅する。
その後の進路は、総合大学進学を目指す子供はギムナジウム(9年間)に進学する。残りの子供達は、事務職や専門職に就くために行く実科学校(Realschule、6年間)へ進学するか、職人を養成するための基幹学校(Hauptschule、5年間)へ進学するする。この仕組みは、戦前からずっと基本的に続いている。
12歳で進路を決める深刻な問題を抱えている
以前は半分以上が基幹学校への進学だったのが、最近は(学校によっても違いはあるが)、半数~8割以上がギムナジウムに行くようになっている。
進路は親が決める場合もあるが、学校の先生が決める場合には、国語と算数の成績でギムナジウムへ行くか、実科学校へ行くか、基幹学校に行くかが決められる。
ギムナジウムに行けない子供は傷つくだろう。まだ10歳程度の子に勉強ができないという劣等感が植えつけられる過酷さは、日本では想像できない辛さがあるのではと思う。
昔であれば、基幹学校であっても、職人の子は誇りをもって進学していただろうが、今は社会的に恵まれない子や移民の子や、勉強についていけなかった子たちが行くようになっているという。
分数ができない大人がいる?
親が職人だと、手工業技術ではなく、ITやハイテク分野へ子供たちを進ませたいという親心から、実科学校やギムナジウムに進学させるようになっている。
しかしギムナジウムに行けない劣等感を持った子供は、勉強意欲もなかなか湧かず、義務教育レベルの知識も身につかないで社会に出て行く。そうして失業者になるケースも少なくないようだ。ギムナジウムに進学する子供が増えたことで、技術者が不足し、結果的に、優秀な職人を輩出した制度が崩壊しつつあるのだ。
一方、エリート教育に進む子供が増えたことで、職業や生活レベルの違った子供たちが交流する機会が少なくなり、視野の狭い大人になってしまうと危惧する声もある。技術大国のドイツでは、分数の計算ができないなど基礎学力のない大人たちがたくさんいるというから驚きだ。
3つのコースに分岐する教育システムにより、教育格差や貧富の差の拡大といった問題が起きてしまった。義務教育における平等性の確保の見直しが進められている。州によっては3つの学校をまとめた総合学校を設立しているところもあるようだが、一部エリート教育を重視する親は、それにも反対の声を上げているようだ。
一見過酷に見える教育システムのメリット
ドイツには小さな頃から「職業」を意識する制度やモノづくりを支えるマイスター制度があるおかげで、身に付くキャリア観は、日本人よりも、早く考えることになる。
勉強が得意でない人は、早く卒業して就職し、勉強ができる人は上を目指すといった「適材適所」の面を考えると、確かに一理ある。
日本の教育は、「みんな一緒に学ぼう」という建前を重んじるため、授業は学習の進み具合の遅い低い子に合わせるので、上を目指す子はみんな塾に通う。
その点では、「できる子を伸ばす」という方にこそドイツ教育の本質があるのかもしれない。
文・ZUU online編集部
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