「水素水」などの健康水ビジネスが盛んだが、エビデンス(科学的根拠)が確認されていないものがほとんどだ。最近でこそ、その信ぴょう性の疑義がただされているが、一見、論理的でないものを信じることはなさそうな、いわゆる高学歴の人でも、根拠が薄い中でもありがたがっている。健康に不安があるとつい心が動いてしまうのだろうか。
「健康水」の多くは効果効能が不明
2016年3月、「水素水」を取り扱っていた販売会社ナチュラリープラスが、特定商取引法違反(不実告知、勧誘目的等不明示など)で、新規勧誘等を9カ月間停止する行政処分を受けた。同社はいわゆるネットワークビジネスを展開している会社だ。15年2月時点の会員数は17万7709人だという。
この件で問題となったのは、効果効能が実際に認められていないにもかかわらず、「どんな病気でも良くなる」などと宣伝していたことだ。冷静に聞けば「眉唾」と切り捨てるところ、自身や家族が難しい病を患っていると、ついそのような宣伝を信じたくなってしまう。特に「水」は毎日それなりの量を摂るものだけに、「少しでもいいものを」という思いから、科学的根拠の希薄なものであっても手を出してしまいがちのようだ。
しかし、いわゆる健康水の多くはその効果効能がしっかりとは確認されていない。この種の水は高額であることが多く、消費者の医療リテラシーの欠如につけこんだ商法が横行している現状もある。健康水を利用するときにはこのことをまず受け止めるべきだろう。
「水素水が身体にいい」は科学的根拠あり? なし?
話題の「水素水」を通じて健康水なるものの科学的根拠や商法としての問題点を考えてみよう。
水素水とは分子状水素(H2)が溶けた水のこと。日本医大教授・太田成男らの研究から、水素ガスをラットに吸入させると活性酸素による脳の傷害を緩和することが分かり、水素ガスを水に溶かしこんだ水素水により同様の効果を得ようとするものだ。
水素水については、人による試験でLDLコレステロールや耐糖能の改善、筋疲労の改善、抗酸化ストレスの低減、パーキンソン病の症状改善、悪性肝腫瘍で放射線治療を受けている患者のQOLの改善といった効果が見出されたという。
しかし、いずれも参加者の少ない試験であり、科学者の間では十分なエビデンスとはいえないという意見がみられる。
日本における水素水研究の第一人者ともいえる太田成男教授も、自身のWebサイトで「まだまだ研究の余地は残されている」と書いており、一部の業者がうたうような万能薬のごとき効能は決して主張していない。また「『水素水』と称したペットボトルの水は、分子状水素、水素ガス、水素水とは別物で 私の研究成果とは全く無関係です。消費者の方は、インチキ商品に注意しましょう」と注意を喚起している。
「きちんとした論文」かどうか知るには?
水素水に十分なエビデンスがあるとはいえないようだが、太田教授のように確立を試みる学者が国内外にいるのも事実であり、太田教授の協力する水素水関連商品も存在する。水素水商法を仕掛ける業者の多くは、こういった真面目な取り組みを根拠にしながら、太田教授のいう水素水とは別物を売っているということになる。
たとえば、水素水商品の中には「H6O」という化学式が記されたものもある。水素を含む水ということで「H2O」の水素原子(H)の数を増やしたということなのだろうが、これはもはや水ではない、何かまったく新しい物質である。これが明らかにおかしいと思える程度の知識がないとさまざまな健康水の是非を見極めるのは難しい。
水素水に限らず、こういった健康水の是非を検討するには、まずきちんとした論文が出ているかどうかを調べるべきだ。“きちんとした論文”かどうかを知る1つの方法はアメリカの医学論文の検索サイトPubMedなどで論文を検索することだが、そもそも、そこで英語の論文を検索して読みこなせる人は、怪しげな商法に引っかかることはないだろう。
もちろんこうした英語の論文があれば問題ないと言い切れるとは限らない。また「科学的根拠がなくても実際に効果が出ていて、本人が効いていると思い込んでいるならいいではないか」とプラセボ効果を指摘する意見もあって難しい。
「健康水」とどう付き合うか
今後、いくつかの健康水でその効果効能が証明されることがあるかもしれない。とはいえ現時点では万能薬のような水は存在しない。そのような効果効能をうたう健康水商品があるなら、疑ってかかるべきだろう。
また値段も重要で、科学的根拠もないのに高額な商品は社会的に問題だが、安価であればそう目くじらを立てなくもいいと考える人もいる。
たとえば一部のマイナスイオン水や水素水などは、スーパーやコンビニなどで一般のミネラルウォーターとさほど変わらない金額で売られている。それらの商品は今のところ普通の水と違った効果効能があるとは証明されていないが、水分として普通の水の代わりになるのは確かであり、「健康にいいのでは」という思いから適切な水分補給につながるのであれば、メリットがなくもない。
一方、高額な健康水商品について、家族や親しい人がその被害に遭いそうなら、消費生活センターなどで同種商品の情報収集を図り、根拠の面で問題があれば、その内容を示しながら注意喚起するといいだろう。
健康水商品で健康被害が出ることはまれだと思われるが、経済的被害はありうる。“単なる水”を高額で買うことのないよう、医療リテラシーを身につけておきたい。
文・ZUU online編集部
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