農業就業人口の減少や就農者の高齢化、さらには耕作放棄地の増大、異常気象の頻発など、人材と環境の両面で日本の農業は大きな課題を抱えている。そこで期待が集まっているのが、IT(ICT)等の先進技術を活用して生産管理や品質・生産効率などの向上を実現する「植物工場」だ。
なかでも、製造業は植物工場事業に積極的で富士通 <6702> 、シャープ <6753> 、トヨタ自動車 <7203> 、日本GEなどの大手企業を筆頭に、多くの企業が新たな収益源として事業化を進めている。最近では、富士電機 <6504> が東京工場で、燃料電池の排熱や排気を栽培に使う省エネルギー型の植物工場を稼働させるなど新たな動きを見せている。
農業のシステム化を実現する「植物工場」
植物工場とは施設内の温度、光、炭酸ガス、養液などの環境条件を自動制御装置で最適な状態に保ち、作物の播種、移植、収穫、出荷調整まで計画的に一貫して行う生産システムのことを指す。施設内での生産のため、天候に左右されることなく作物を周期的に安定供給でき、病害虫の被害を受けずにすむほか、高齢者や障害者の方の雇用につながるなどの利点がある。
ただ、初期投資、運営投資ともに大きくなる他、栽培ノウハウが今は限定的であるなどの課題も指摘されている。
富士電機のシステムでは出力100キロワットの燃料電池から出る排気と排熱を栽培に活用する。一方、富士通では半導体のクリーンルームを転用した植物工場を設立。農業や畜産業向けのクラウド型の基幹サービス「Akisai」(秋彩)など農業分野への取り組みを強化し、腎臓病患者でも食べられる機能性野菜である低カリウムレタスを生産し、野菜販売にも乗り出している。
異業種からの参入でにぎわう植物工場ビジネス
植物工場の関連銘柄は前述の富士電機や富士通など畑違いの企業の参入も積極的で、多岐にわたっている。エスペック <6859> は植物生産システムや機器を手掛けるほか、王子HD <3861> はリーフレタスなど葉物野菜の栽培および販売を行っている。日本山村硝子 <5210> は完全制御型植物工場で各種葉菜類等の生産・販売に取り組んでおり、片倉工業 <3001> は低カリウム野菜の量産事業を推進している。
大和コンピューター <3816> は農業のICT化に取り組むほか、eBASE <3835> は農産物の生産履歴管理システムを開発。ネポン <7985> は農業ICTクラウドサ-ビス「アグリネット」を展開するほか、日伝 <9902> は大阪府大などとロボットを駆使した最先端の植物工場を運営している。安川電機 <6506> はロボット技術を活用した種まきから収穫、包装、出荷まで自動化システムを展開中だ。
一方、昭和電工 <4004> は独自の高速栽培法「SHIGYO法」を応用し、植物工場ビジネスのトータルサポート体制を敷く。トプコン <7732> は農場向けの総合管理システムを提供しているほか、クボタ <6326> は農業機械とICTを利用した営農・サービス支援システムを推進、SJI <2315> はスマートアグリシステムで必要となるソフトウエア開発に取り組んでいる。
このほか、ローム <6963> は福岡で植物工場を運営。兼松 <8020> もスマートアグリ事業を手掛けている。キューピー <2809> は完全制御型植物工場「TSファーム」を開発しているほか、豊田通商 <8015> は工場の廃熱を活用した植物工場を運営している。JR東日本 <9020> は福島県いわき市に太陽光利用型植物工場を建設しているほか、大林組 <1802> も千葉大学と人工光型植物工場の共同開発に取り組んでいる。
文・鈴木ロミオ(金融ライター)/ZUU online
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