若者のクルマ離れというキーワードがすべてに関連

 前出の桑野氏に話を聞いた。

――自動車整備工場や整備士が不足し始めていることで、すでに具体的に影響や問題などが生じているのか。

桑野氏 私自身、7年ほど前までレンタカー会社の企業再生で整備工場の経営に携わっていたが、自動車整備士の人手不足は何年も前から続く大きな問題。整備工場は人手が足りないことで適正な仕事量をマネジメントできず、職場環境も悪化していくことで、仕事のクオリティが落ち、結果として整備不良が起こり、事故の増加へとつながる。

 ここでいう整備不良とは、仕事の詰め込みすぎや焦りによるミスと、経営側が利益を追求し過ぎることで、実際の作業内容と客への請求内容が異なる虚偽、つまり意図的な整備不良の両面が発生しており、最近報道されているようなさまざまな問題へとつながっている。結果、整備士という職業に対する負のイメージが膨らんで、志望者は減る一方。人材確保が難しい整備工場は、高齢者に頼るしかなく作業効率が落ち、新しい車種に対応する情報量も劣ってくることで、適正な仕事量をキープできず、経営不振に陥る。こうして整備工場の倒産が増えることで、地域レベルでの車検整備の需要供給バランスが崩れ、結果として整備不良や整備不足による事故トラブルが増えているのが今の状況だろう。

――整備士と整備工場が減っている原因は何か。

桑野氏 整備士が減っている原因は、若者のクルマ離れというキーワードがすべてに関連しているように思われる。それに伴う志望者の減少、さらに整備士の資格を取得するための専門学校も廃校が増え、学ぶ場も減っているという悪循環。華やかなモータースポーツも、日本の文化にはなかなか根付きにくく、レースメカニックという世界も狭き門に少数のなり手、という状況。若者のお金を使う対象が多岐にわたることで、クルマを趣味のツールと捉える人が減り、整備士という職業への興味も湧かなくなっている。そして、そもそも整備士になるメリット、職業として選ぶ理由が少ないというのが実情だろう。将来を見据えた時にも、夢がない。その根源は少子化でもあり、不景気でもあり、問題は複雑に絡み合っている。

 整備工場が減っている原因としては、いわゆる町工場はメーカー系ディーラーと違って、さまざまなメーカー、ブランドの非常に幅広い車種を整備する必要があるため、必要な機材も相応に多く、設備費の負担も大きい。近年の自動車はOBD2ポートにつないで不具合箇所を診断するスキャンツールを用いての点検整備が必須だが、新しい車種が出るとスキャンツールのデータ更新や機種変更も必要となり、費用が嵩(かさ)んでくる。

 さらに、ここ数年で発売されているクルマは、車体側のコンピューターと各部品のセンサーが複雑に関連付けされていて、故障や事故で部品交換をした際に、そのままでは走れない。エーミングという作業によって、交換した部品と車体との整合性を取る作業が必要で、そのための機材も非常に高額かつ使い方も難しいため、研修費用も必要となる。一方で安全装備と運転補助機能が充実することに伴って事故が減り、鈑金工場などボディワークの仕事量は減少傾向にある。

 一般的にあまり知られていないが、最近のクルマの修理は部品交換して終わりではない。定められた環境下で、適切な機材を用い、車体と交換した部品をマッチングさせてコンピューターのエラー信号をリセットして、ようやくオーナーの元へ返却できる。これだけの作業を適正な価格で請け負える整備工場は、日本中を探しても一握りだろう。メーカー直結のディーラー店舗でも、設備投資と作業費用と作業量のバランスが必ずしも適正とはいえないのではないか。

 過去の自動車整備業は日本のモータリゼーションの発達とともに一気に拡大し、過当競争の結果として適正価格が崩れ、安請け合いで自滅する工場がどんどん廃業に追い込まれてきたという経緯がある。時代とともにクルマは進化し、物価も変化しているというのに、車検制度や整備に関するさまざまな事が1960年代からさほど変わっていないというのも、無関係とはいえないだろう。