光武蔵人監督から永井豪先生へのラブレター

――永井先生の原作をアメリカで映画化するのはチャレンジングだと思います。
光武:僕はもともとロサンゼルスに住んでいるということもあり、日本の会社に制作費を出してもらって、それをアメリカで実写化するのを今までやってきました。東映ビデオさんが最初に僕を雇った段階からそうしてほしかったんだと思います。東映ビデオさんはビデオ・バブルの頃、「東映Vアメリカ」というシリーズを制作していたこともあるくらいなので、海外展開を常に意識しています。
――監督が過去作のインタビューで「これからは日本で映画を撮っていきたい」とおっしゃっていたので、日本で撮影するという選択肢もあったのではないでしょうか?
光武:そうですね。ただ、今回は特撮も意識したジャパニーズヒーロー物なので、やっぱり日本でやると日本の形に収まっちゃうかなという懸念がありました。日本ではベタになってしまうことをアメリカでやるのがよかったと思います。
――たとえば、広大な砂漠などを撮影しようと思っても、そもそも日本では難しいですからね。
光武:日本でああいう景色を撮ろうと思ったら、鳥取に行くか、CGにするかになりますよね。ロサンゼルスだと、ああいう景色が1時間15分くらい車で走ればあります。そもそもロサンゼルスが映画の都になった理由は、市街地から北に1時間走れば砂漠があって、南に1時間半走れば海があって、東に1時間走れば山があるからです。しかも、1年365日の360日は晴れているという立地です。そういう意味でロケーションは本当にいろいろあるので、アメリカでしか撮れない画を撮ろうと意識しました。
――『唐獅子仮面』には永井先生の作品のオマージュが見られましたが、これらは永井先生のファンに対するサービスでしょうか?
光武:自分に対するサービスでもありますね。企画が立ち上がった段階から「この映画は僕から永井先生へのラブレターだ」というテーマが僕の中にありました。

たとえば、女性がアノロックに変身する冒頭のシーンでは、『デビルマン』の最初でサバトでデーモンと合体する女の人と同じポーズを取ってもらったり、同じようにシャドーを付けてもらったりしています。「このカットはあれだね」と言いながら楽しんでいただければと思います。永井先生のファンの方たちと答え合わせ上映みたいなのをやってみたいですね。
――永井先生の漫画の印象的なシーンがあちこちに盛り込まれているのは、永井先生からのご要望ではなかったのですね。

光武:そうです。永井先生は放し飼いにしてくださったので、逆に「ここまでオマージュだらけにしていいんですか?」状態で、東映のプロデューサーが心配していたくらいです。でも、何の問題もなく、永井先生にも非常に楽しんでいただけました。
――永井先生のファンがニヤッとできる映画だと思います。
光武:ニヤッが散りばめられていると思います。
――そういう意味では、監督の過去作に出演されていた俳優さんが出演されていたり、火星移住計画の宇宙船の名前になっていたりするのも印象的でした。
光武:そうそう。宇宙船の名前が、『サムライ・アベンジャー』(2009年)の悪役を演じてくれたドミチアーノ・アーカンジェリという俳優の名前です。残念ながら、彼はコロナ中に事故で亡くなっちゃったんですよ。彼とは「またいつか組みたいね」という話をずっとしていたんですけど、組めなくてなってしまったので、宇宙船の名前を彼のオマージュにしました。