近代F1最強と言われてきた1988年マクラーレンと2023年レッドブル
伝説として語り継がれる1988年マクラーレンは、当時、既に2度のドライバーズタイトルを獲得していた最強ドライバーの「アラン・プロスト」選手、最速ドライバーの「アイルトン・セナ」選手、圧倒的パワーでレースを支配していた最強の「ホンダエンジン」、トップレベルの車体と稀代の名将「ロン・デニス」監督による高いチームマネジメントが実現しており、その組み合わせはジョイント・ナンバー1と提唱されていました。
シーズンの結果は圧巻で、もちろんコンストラクターズとドライバーズのダブルタイトルを獲得、圧勝の戦績は凄まじく、イタリアGPを除き全て優勝(1位)「16戦中15勝で勝率=93.8%」、同じくイギリスGPを除き全てポールポジション(予選1位)「16戦中15ポールポジションでポールポジション率=93.8%」、獲得ポイントは「199ポイント」で2位フェラーリの「65ポイント」の3倍以上と圧倒して、その後も時代でF1のポイント制度は異なるものの、ここまで他チームを圧倒する結果を残した例はありません。
ちなみに当時のドライバーズタイトルには上位11戦の有効ポイント制が採用されていたため、獲得ポイントでは下回るものの日本でもとても人気が高かった「アイルトン・セナ」選手(獲得94ポイント、有効90ポイント)がチームメイトでライバルの「アラン・プロスト」選手(獲得105ポイント、有効87ポイント)に競り勝ち、初のドライバーズタイトルを獲得しました。
2人のドライバーによる激しい競い合いは「セナプロ対決」と称されてF1を牽引、たくさんのファンを惹きつけてF1の人気が盛り上がり、その後における日本はもちろん世界のF1人気に拍車をかけ貢献しました。
一方、2023年レッドブルは1988年マクラーレンと同じくシンガポールGPを除き全て優勝しており、さらに1988年の年間16戦に対して2023年は年間22戦(予定は23戦であったがエミリア・ロマーニャGPが豪雨災害で中止)であっため「22戦中21勝で勝率=95.5%」と1988年マクラーレンを僅かですが勝率で上回るという偉業を成し遂げました。
そして、1988年マクラーレンも2023年レッドブルも日本のホンダがエンジン、パワーユニットに関わっていることが共通しています。
では、どちらが凄かったのか? について、本来は時代が異なるので両者の比較はできませんが、今回はチームとして、それぞれの時代において他チームと比較して相対的にどちらが速かったか?強かったか? についてできるだけ客観的に記憶と記録から比較をしてみました。
記憶からの印象では2023年レッドブルは抜群の安定感を誇り、他チームが速さを見せたりアクシデントがあったりしても、最後は確実に優勝するという強さと凄みを持ち、特にドライバーとして史上最多の年間19勝を挙げた「マックス・フェルスタッペン」選手の圧倒的パフォーマンスと勝利への執念、「セルジオ・ペレス」選手の堅実で安定した走りとトップレベルのマシンパフォーマンスから素晴らしい結果をもたらしたと思います。
対して1988年マクラーレンは、「アラン・プロスト」選手と「アイルトン・セナ」選手によるチームメイト同士による熾烈で研ぎ澄まされた別次元の戦いが毎回のレースで繰り広げられ、2023年レッドブル以上に他を圧倒する凄まじい速さで他チームを大差で引き離していたと記憶していますが、客観的、定量的に比較するために改めて記録から分析してみました。
結果として、あくまでもひとつの見方ではありますが、やはり、1988年マクラーレンは2023年レッドブルでさえも比較して圧倒的パフォーマンスの結果を残していたと考えられます。
理由として、先ず評価にあたって「フォーミュラワン世界選手権」と同様にポイントで比較するため、2023年レッドブルの結果に1988年のポイント制度をあてはめて(逆だと加点等で複雑であるため)、GP数を1988年と同じ年間16戦としてポイントを換算すると「188ポイント」であることから「199ポイント」であった1988年マクラーレンには及びません。
続いて、チームとして1ー2フィニッシュ(1位と2位)率の比較でも1988年マクラーレンは「62.5%」と2023年レッドブルの「27.3%」に対して倍以上で、その速さを端的に表しているのがレース決勝や予選の他チームとのタイム差です。
決勝では1988年マクラーレンの「アイルトン・セナ」選手が何とチームメイトの「アラン・プロスト」選手以外、他の全てのチームを周回遅れ(1ラップ以上の遅れ)にしたレースが2つ、さらに1-2フィニッシュの際にチームとしての下位である2位と他チームでは最上位の3位とタイム差が30秒以上もあったレースが前述の周回遅れの2レースも含めて7レースも存在しておりますが、2023年レッドブルには同様の見方でタイム差が30秒以上あったレースは1レースもありません。
また、予選でも1988年マクラーレンは、ポールポジション率が「93.8%」と2023年レッドブルの「63.6%」を上回っており、ポールポジションと2位の独占もマクラーレンの「75.0%」が2023年レッドブルの「4.5%」を圧倒していて、さらに1988年マクラーレンは予選でポールポジションと2位を独占した際にチームとしての下位である2位と他チームでは最上位の3位とタイム差が「2.5秒以上」が1回、「1.5秒以上」が1回、「1.0秒以上」が3回、「0.8秒以上」が2回、「0.2秒」以上が3回、「0.2秒未満」が2回と2023年レッドブルの「0.2秒未満」が1回を遥かに凌ぎます。
1周1.0秒の差は極めて大きいとされるF1で、予選での2.5秒差と言うのは凄まじい差で計算上は40周で100.0秒にも至るため周回遅れも必然です。
しかも、当時の過給機付き(ターボ)エンジンにはレギュレーションで燃料タンク容量が150ℓに規制され燃費が厳しかったこともあって、何と他の上位チームでさえ、決勝では1988年マクラーレンより周回遅れで1ラップ少ないことを予め計算して作戦に取り入れていたという逸話も存在するほどです。
そして、時代でポイント制度が異なるため本来は比較できませんが、各々の時代における実際の獲得ポイントによる2位チームとの差異といった見方においても1988年マクラーレンは2位フェラーリの3.1倍と2023年レッドブルの2位メルセデスの2.1倍を上回ります。
もう一つ、勝つための速さという点において1988年マクラーレンは全てのレースで他を圧倒しており、コース特性も含めて優勝する速さがなかったレースは1レースも存在せず、唯一、優勝を逃したイタリアGPもトップを独走する「アイルトン・セナ」選手が病気で欠場したウィリアムズの「ナイジェル・マンセル」選手の代役で走っていた「ジャン=ルイ・シュレッサー」選手と接触して優勝を逃しており、速さとしては十分に優勝できるポテンシャルを持っていました。
一方、2023年レッドブルは1戦だけですがシンガポールGPにおいてフェラーリや他チームに速さで負けていて(市街地サーキットでバンピーという特殊と言っても良いコースにマシン特性が合わなかったのが要因と言われています)、これはまたF1の奥深さを物語っていると感じます。
もちろん2023年レッドブルも異次元の速さと強さで、特に「マックス・フェルスタッペン」選手の年間19勝は未だかつてない大記録です。
興味深いこととして、1988年マクラーレンも2023年レッドブルも唯一、優勝できなかったレースで優勝しているのがF1の代名詞と言われるフェラーリであるということです。
優勝したドライバーは、1988年は「ゲルハルト・ベルガー」選手、2023年は「カルロス・サインツJr.」選手です。
1988年はフェラーリの地元イタリアGPで1-2フィニッシュ、さらにフェラーリの創業者である「エンツォ・フェラーリ」氏が亡くなられてから日にちもたっておらず、その日のモンツァ・サーキットの熱狂と興奮は今日まで語り継がれています。
受け継がれる「ホンダのF1フィロソフィー」と将来
世界最先端の技術が研究開発され続けて惜しみなく投入されるF1に、ホンダが世間から無謀と揶揄される中で初めて参戦したのは1964年で60年ほど経ちますが、その間に自動車、F1の世界は進化と変化を続け、研究開発においても物理モデルを材料、機械、電気、電子、制御など鑑みて自身で検討、実際にテストしてという従来からの研究開発のみならず、ソフトウェアを駆使してシミュレーションやモデルベース開発(Model Based Development:MBD)、モデルベースシステムズエンジニアリング(Model Based Systems Engineering:MBSE)を実現するべく、如何にIT、AIといったツールを上手く使えるか? も研究開発で競う時代に突入しています。
つまり、研究開発のスタイルは大きく変化していて従来は物理学や機械工学、電気工学、ハードウェアといった分野の力が問われていましたが、現在はシステム、IT、AI、ソフトウェアといった分野も非常に重要になってきています。
そんな中、ホンダがF1に初めて参戦して以来、脈々と受け継がれる技術的知見やノウハウなどはもちろんのこと、「ホンダのF1フィロソフィー」や思想、スピリットが受け継がれていくことは、いつの時代においても有効でマネージャー、エンジニア、サポートスタッフなどにとって唯一無二のホンダしか持ち得ない価値でアドバンテージですが、これらはF1に参戦しているからこそ持ち得る宝であると考えられます。
今回、ご紹介した1988年マクラーレンから2023年レッドブルに至るまでも技術の伝承、「ホンダのF1フィロソフィー」が脈々と受け継がれてきたからこそ、時代が移り変わり現場を担う「人」が変わっても他を圧倒する戦績を残せているのだと思います。
ホンダは2026年にアストンマーティン・アラムコ・コグニザント・フォーミュラ・ワン・チーム(Aston Martin Aramco Cognizant Formula One® Team)へのパワーユニット供給でチャンピオンを目指すことを発表していますが、かつてはカーボンニュートラル対応に専念するため撤退としていたものの、FIAが2030年のカーボンニュートラル実現と2026年から100%カーボンニュートラル燃料を義務付け電動出力の比率も現在の3倍に引き上げることから参戦へと方針転換したとのことです。
F1においてはチームとしての総合力が結果に結びつくため、現在の最強チームであるレッドブルとの連携に比べて困難で厳しい状況が想定され、さらにライバルであるフェラーリやメルセデス、他チームの台頭もあって、チャンピオンへのハードルは一段と高いと思われますが受け継がれる「ホンダのF1フィロソフィー」によって技術者が成長して、きっと「チャンピオンパワーユニット」サプライヤーという時代が来るのではないでしょうか。
そして、安全で世の中をHappyにするエキサイティングで人々を魅了させてくれる将来のF1であることを願います。
参考リンク)
© 2003-2024 Formula One World Championship Limited
F1 2023(HRC)
レッドブル・レーシング
スクーデリア・アルファタウリ
“STORIE ALFA ROMEO” EPISODE 4: ALFA ROMEO BECOMES THE FIRST CONSTRUCTOR TO WIN THE FORMULA 1 CHAMPIONSHIP(ALFA ROMEO)
ファン・マヌエル・ファンジオ(Wikipedia)
マトラ・MS80(Wikipedia)
モナコグランプリ(Wikipedia)
Ferrari F2002(Ferrari)
70th Anniversary Grand Prix 2020 – Sunday(Mercedes-Benz)
ヒストリー(Honda)
文・CARSMEET WEB/提供元・CARSMEET WEB
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