テレビ局側が原作者や脚本家との間で信頼関係を築くことが重要

 今回、テレビドラマ『セクシー田中さん』の原作者である芦原妃名子さんが亡くなったことは大変残念なことで心からご冥福をお祈りしたいと思います。当事者が亡くなってしまったことから、軽率に事実を判断することは控えなければならないと思います。

 まず、ドラマの制作サイドと原作者がどのようなかたちで制作を進めているのかという点について、私自身はドラマの制作部署にいたわけではないので、実際の制作過程に詳しいわけではありません。この点は正直よくわかりません。次に、原作者の意向を無視したり、無断で原作のプロットを大幅に改変するようなことはあるのかという点については、この点も経験があるわけではないのでわかりません。が、コンプライアンスを重視する昨今のテレビ界の雰囲気を考えると、そうしたことは、かつてはあったかもしれませんが、現在はほとんどないと思います。

 以上の前提で、ごく限られた視点で今回の問題の背景についてコメントします。近年のテレビドラマでオリジナル脚本よりも漫画や小説などの原作をもとにした作品が目立っています。他方で、ドラマ制作にあたっては地上波での「放送」だけでなく、インターネットでの「配信」も可能になる環境づくりを進めています。かつてはこうした際の契約はかなりずさんで、使われている音楽などの権利処理ができずに昔のテレビドラマをネットで配信できないという事態に陥っています。現在はその点はかなり改善されており、ネット配信も見据えた契約書となっています。契約そのものが以前よりも厳密なものになっているので、原作がある作品についてドラマ化する場合にも、原作の扱いをどうするのかについては、かなり細かい点まで詰めた契約を交わしている可能性が高いと思います。

 今回、契約はどうなっていたのでしょうか。契約書の内容そのものが詳しく明かされていないため明確にはいえませんが、原作をどう扱う取り決めになっていたのかをめぐって原作者と日本テレビの制作サイド、あるいは脚本家との間で「解釈のズレ」が生じていた可能性が大きいと考えています。特に原作者と脚本家の間で「解釈のズレ」があったことは、SNSでの発信などから見てとることができます。

 原作者の芦原さんは自身のブログに「ドラマ化するなら『必ず漫画に忠実に』。漫画に忠実でない場合はしっかりと加筆修正をさせていただく」などの条件を原作代理人である小学館から日本テレビ側に示してのんでもらったと記しています。とはいえ、契約の詳細が公表されていない現時点においては「解釈のズレ」があったことだけが確かなことです。この場合、原作者および脚本家に対する説明・調整などを行うのはテレビ局側の制作者、特にプロデューサーの役割です。結果的にはその調整の役割がうまくできていなかったのではないかと思います。

 原作者も脚本家も、こうしたクリエィティブな作品づくりをする人たちは一作一作に命がけで取り組んでいます。それだけに繊細な面もあり、“当初の約束”が守られなくて自分の作品が改変されたと感じたら、精神的に大きな傷を負うケースも少なくありません。もちろん今回のケースでは“当初の約束”や契約書が実際にどうだったのかはわからないので、どちらかに非があるというわけではないのかもしれません。むしろ、そこを含めて、テレビ局側の制作者と原作者、脚本家とのやりとりがどうだったのか、信頼関係があるとはいえない状態にあったように伝わってくるのはとても残念なことです。

 では、今回のようなトラブルが生じないようにするには、今後のドラマ制作の現場において、どのような取り組み・施策などが必要なのでしょうか。

 テレビ局側が原作者や脚本家との間で、丁寧に説明して信頼関係を築くことが一番大切なことです。ラスト2回の脚本を原作者が自ら書くという通常はありえない事態になって、局の制作サイドも放送日までに番組を制作して無事に放送するだけで四苦八苦したのだろうと想像します。ただ、そうした状態になったのであれば、関係者が納得して最終回を見届けるように調整し、信頼関係を築くことに努めるのがプロデューサーの大事な役割です。時間に迫られるとそうした“丁寧な対応”がおろそかになりがちなので注意すべきです。

 もう一つは、関係者がSNSで自分の不安定な気持ちを吐露した場合の精神的なケアも大事な要素です。2020年にフジテレビが放送したリアリティー番組『テラスハウス』で出演者だった木村花さんへの誹謗中傷がSNS上で広がって自死した際の局側のケアが十分だったのかをめぐっては、BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送人権委員会も「出演者の健康状態に関する配慮に欠けていた」とし、「放送倫理上の問題があった」と判断しました。同様に関係者のSNSなどでの発信にも注意を払って精神的なケアをしていくことも、テレビ局側が注意すべき課題になっているといえると思います。

(文=Business Journal編集部、協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授)

提供元・Business Journal

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