漫画家の芦原妃名子さんが29日、栃木県内で死亡しているのが発見された。芦原さんは昨年10月期の連続テレビドラマ『セクシー田中さん』(日本テレビ系)の原作者。芦原さんは今月、ドラマ化を承諾するにあたり制作サイドに条件として、必ず漫画に忠実にするという点や、ドラマの終盤の「あらすじ」やセリフは原作者が用意したものを原則変更しないで取り込むという条件を提示し、両者の合意の上でその旨を取り決めていたにもかかわらず、何度も大幅に改変されたプロットや脚本が制作サイドから提出されていたと公表。終盤の9〜10話も改変されていたため芦原さん自身が脚本を執筆したと明かしたが、制作サイドへの批判とも受け取られる原作者による異例の公表に、さまざまな声が寄せられていた。原作があるドラマの制作現場においては、制作サイドと原作者はどのようなかたちで制作を進めていくのか。また、原作者の意向が無視されたり、無断で原作のプロットが大幅に改変されたりするケースはあるのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。
発行部数700万部のベストセラー『砂時計』(小学館)などで知られる漫画家、芦原さんが月刊漫画誌「姉系プチコミック」(小学館)に連載中の『セクシー田中さん』。同作を原作とする同名の連ドラが女優・木南晴夏の主演で放送されたが、その裏で起きていた問題が表面化したのは昨年12月のことだった。脚本を担当する相沢友子さんは自身のInstagramアカウントで、
「最後は脚本も書きたいという原作者たっての要望があり、過去に経験したことのない事態で困惑しましたが、残念ながら急きょ協力という形で携わることとなりました」
「今回の出来事はドラマ制作の在り方、脚本家の存在意義について深く考えさせられるものでした。この苦い経験を次へ生かし、これからもがんばっていかねばと自分に言い聞かせています。どうか、今後同じことが二度と繰り返されませんように」
と投稿。9話・10話の脚本は自身が担当していない旨を説明した。
これを受けさまざまな憶測が飛び交うなか、1月に芦原さんは自身のブログ上で経緯を説明。ドラマ化を承諾する条件として、制作サイドと以下の取り決めを交わしていたと明かした。
<ドラマ化するなら『必ず漫画に忠実に』。漫画に忠実でない場合はしっかりと加筆修正をさせていただく>
<漫画が完結していない以上、ドラマなりの結末を設定しなければならないドラマオリジナルの終盤も、まだまだ未完の漫画のこれからに影響を及ぼさない様『原作者があらすじからセリフまで』用意する。原作者が用意したものは原則変更しないでいただきたい>
芦原さんは、これらの条件は<脚本家さんや監督さんなどドラマの制作スタッフの皆様に対して大変失礼な条件>であると認識していたため、<この条件で本当に良いか>ということを原作漫画の発行元である小学館を通じて日本テレビに何度も確認した上でドラマ化に至ったという。
だが、実際に制作が進行すると毎回、原作を大きく改編したプロットや脚本が制作サイドから提出され、
<漫画で敢えてセオリーを外して描いた展開を、よくある王道の展開に変えられてしまう>
<個性の強い各キャラクター、特に朱里・小西・進吾は原作から大きくかけ離れた別人のようなキャラクターに変更される>
といったことが繰り返された。そして1~8話の脚本については芦原さんが加筆修正を行い、9~10話の脚本は芦原さん自身が執筆し、制作サイドと専門家がその内容を整えるというかたちになったという。
漫画家からも反応
このブログ投稿には、過去に作品をドラマ化された経験を持つ漫画家からも反応が示されていた。『のだめカンタービレ』(講談社)の原作者・二ノ宮知子さんはX(旧Twitter)上に、
<原作者が予め条件を出すのは自分の作品と心を守るためなので、それが守られないなら、自分とその後に続く作家を守るためにも声を上げるしかないよね…>
とポスト。『18歳、新妻、不倫します。』(小学館)の原作者・わたなべ志穂さんはX上に、
<改めてですが芦原先生はとてもリスクを持ち発言されたと思います。俳優さんを傷つけるのではないか、ドラマを楽しんだ方から非難されるのではないか、自分はこれ以上傷付くのか。ドラマ制作時作者には味方はあまりに少ない。勿論大事にして下さる現場もありますが多くは違うはず 飲み込む作家がほとんどでしょう。それは冒頭の俳優さんや視聴者原作ファンのために>
とポスト。
また、参院議員で漫画家の赤松健氏はX上に、
<漫画や小説のメディアミックス企画(アニメ化やドラマ化)では、昔から頻繁に「原作者の望まない独自展開やキャラ変更」などが問題になってきた。もっとも近年は「原作者へのまめな報告や根回し」が行われるようになり、昔のような「原作者が協力を拒否して(オリジナル企画へと)タイトル変更」などというような事は少なくなってきたと思う>
<まだまだ「(原作者への)事前説明の徹底」と「二次使用に関する契約書」の詰めが甘いということだ。この2点は主に出版社と制作側(製作委員会など)側の問題だが、原作者側でも「事前の説明で納得がいかなかったり、後から約束と違うようなことがあった場合の相談場所やその知識」が必要になってくると考える>
とポストしている。