「AI・ロボットが小説を書く」時代

時は21世紀。AI・ロボットが、人間のお株を奪って「物語を作ったり」「小説を書いたり」してしまう。そんな現実が訪れている。今年の3月にも、SF作家・星新一さんにちなんだ文学賞「星新一賞」の一次選考を、AIの作品が、通過したという驚きのニュースが流れるなど、成果が出つつある。

一言でいえばまさに、AI・ロボットが小説を書く時代になったのだ。今回のAIによる小説の執筆と、文学賞の一次選考の通過は、公立はこだて未来大学の松原仁教授が統括するプロジェクト「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」によるもの。2012年9月に開始し、足掛け3年半でここまでの成果を出した計算だ。

そこで思い出されるのは、フィリップ・K・ディックの手による1968年発刊の古典的な名作SF小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」だ。同作品の中で一貫したテーマとして扱われているのは「人間とは何か?」「人間と人工知能の違いは?」ということで、まさに今、創作という分野で曖昧になりつつある人とロボットの境界線についての疑問を彷彿とさせる。

我々人間だけにできる仕事だと思われていた創作を、コンピュータが出来るようになっているこの事実は、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」のモチーフを再び想起させるものだ。ただ、AIやロボットまで創作が出来るのであれば、人に固有の権利だとされてきた「著作権」も影響を受けざるを得ないが、ちょうど今、議論を読んでいる様子だ。

AI・ロボットの著作権が問題になるワケ

AI・ロボットが小説を書くと、今度はその作品に対する著作権が問題になる。いったい、なぜだろうか。小説や音楽など、創作物には著作権が発生する。著作権は創作物の違法コピーや勝手な使用などの不正利用から、作成者である著作者の利益を守るために設けられているといえる。

例えば、田中さん(仮名)がある小説と書いたとして、佐藤さん(仮名)がその内容を勝手に自分の作品に流用してしまえば、大きな問題になる。むろんアイデア盗用そのものに不正使用の側面もあるが、田中さんにとっては、自身の創作で当然、得られるはずだった利益を得られず、佐藤さんが利益を得ることになりかねない。このような他社の創作物の不正な利用や、創作者の不利益を防ぐために不可欠な仕組みだ。

しかし、AI・ロボットの創作物が出てくると、一つ問題が生じる。AI・ロボットが権利としての「著作権」の主体になれるかどうか不透明だからだ。結論から述べれば、現行制度では、AI・ロボットの作品に、著作権はないとされる。今までAIやロボットが作品を作ったことなどないのだから、著作権法にとってそんなものは「想定外」の出来事なのだ。

言い換えれば、問題は「AI・ロボットが書いた作品を保護する仕組みがない」ということなのだ。どういうことが起こるのかといえば、まず、次の可能性がパッと思い浮かぶ。すなはち、(1)AI・ロボットが作った作品は自由に断りなく第3者が利用できる、(2)AI・ロボットが作った作品の「利益を誰が手にするのか」が明確ではない、ということだ。

つまり、現在の著作権法では、AIやロボットが創作した作品が盗用されても法的に問題にはならず、損害賠償や差し止めといった法的手段に訴えることも出来ない。

他方で、文章を執筆するAI・ロボットの実用化は進みつつある。AP通信では既にロボット記者が記事を書き始めており、従来の、人が記事を書くよりも10倍以上も速く、記事を書けるそうだ。そうしたAI・ロボットの創作物を第三者が活用する際などには、著作物の権利の取り扱いが問われるため、その明確化が喫緊の課題となっているのだ。

政府も検討を進める「AIの著作者認定」

日本政府もこのAI・ロボットの著作権についての議論を始めている。政府の知的財産戦略本部(本部長・安倍晋三首相)が、AI・ロボットによる著作物の権利を保護する必要性を盛り込んだ「知的財産推進計画」を決定しており、制度的な対応を進めようとする動きもある。

その中で、政府は現行制度では不透明な著作権の主体の明確化や、ビッグデータを活用した著作物に対する著作権の見直しを進める構えだ。AI・ロボットによる著作物についても、保護するための法制度の整備を積極的に進めることが盛り込まれている。

具体的には、2016年度中にAI・ロボットによる著作物の保護に関する法制度の検討を進めた上で、必要があれば2017年度以降に実際の法制度として整備する見通しだ。

「ロボット著者」で、約1000万ドルを調達する企業も

実際、文学賞の一次選考を通過できる、AI・ロボットが書いた小説や、ロボット記者が書いた記事は、今後、さらに増える可能性もある。すでにそれを予言するかのような動きがすでに海外では始まっている。「ロボット著者」のビジネス化だ。

具体的には、AP通信が利用しているロボットは、オートメイテド・インサイツ(Automated Insights)社の自動記事執筆技術とザックス・インベストメント・リサーチ(Zacks Investment Research)の提供するデータを活用して、記事を製作しているという。言い換えれば、ロボットをビジネスとして売り出す企業が出てきており、1000万ドルを調達したというベンチャー企業の話もある。

今やAI・ロボットによる創作は「研究」レベルを超えて「ビジネス」として成立する段階にまで来ているのだ。今後ビジネスとして拡大していくためには、先ほど説明した著作権の問題をクリアすることはまさに急務である。

著作権の問題がクリアされたとき、さらに「ロボット著者」のビジネスは急拡大するのではないか。もともとは我々、人間だけに出来た創作、それをロボットがどんどんやってしまう未来。近い将来には本当に、「人間と人工知能の違いは何なのか?」という大きな疑問が論議される時代が訪れるかもしれない。

文・ZUU online編集部

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