住宅や公共施設と同じように、ゴルフコースにもその設計を担う専門職がいます。普段はあまり意識することのないゴルフコース設計ですが、その考え方や意図を知ると、より濃密なプレー体験が可能です。そこで今回は、世界を舞台に活躍するコース設計家にインタビュー。日本のゴルフコース設計への評価や、名門コースの条件などを聞いてみました。
ゴルフ先進国アメリカのコース設計家が考えるコースデザインの理想形とは
韓国・済州島「ザ・クラブ・アット・ナインブリッジ」、シンガポール「セントーサゴルフクラブ」、どちらも米PGAツアーや、LIVゴルフなどでビッグトーナメントの開催コースとなっている世界的コースであり、ゴルファーなら一度はプレーしてみたい憧れのコースでしょう。これらに日本国内の「ボナリ高原ゴルフクラブ」を加えた3つのコースは、実は同じコース設計事務所が手掛けていることをご存じでしょうか。
これらは、アメリカのゴルフコース設計事務所「ゴルフプラン」社によるものです。コース設計とは端的に言えば、ゴルフコースを建設する際、ホールの配置(ルーティング)や形状、ティイングエリアやフェアウェイ、ハザードの配置といったデザインのこと。これに加え、建築にかかる予算管理や工事の監理業務といったプランニングなどの関連業務も付随します。
このため、ゴルフの競技性への理解はもちろん、芝の種類や植栽の知識、魅力的なランドスケープデザインのセンス、灌がいや土壌への知見、コスト意識や環境保護まで、幅広い知識が求められる、まさに匠の世界といえます。
ゴルフプラン社は、前述したコースを含め、現在でも、世界中で様々な新規コース設計やコース改修を行っています。その代表であり、デザインチーフでもあるデイビッド・デール氏が、11月某日、イベントで来日。講演の忙しい合間を縫ってインタビューが実現。普段のプレーではあまり意識することがない、ゴルフコース設計家の仕事や現代のゴルフコースのトレンドについてお話を聞くことができました。
-世界中で活躍されているデイビッド氏から見て、日本と世界のゴルフコースとその設計に違いはありますか?-
「日本のゴルフコースは、1980年代前後にジャック・ニクラスのコース設計が採用され、以降インターナショナルなゴルフ設計が取り入れられるようになりましたが、それまでは独自の進化を遂げてきました。
厳密にいえば、日本のコース設計は英国のチャールズ・ヒュー・アリソンから始まったものです。『旧東京ゴルフ倶楽部』、『川奈ホテル富士コース』、『廣野ゴルフ倶楽部』などを設計し、改修のアドバイスを行なった『霞が関カンツリー倶楽部東コース』、『鳴尾ゴルフ倶楽部』などを含め、それらは現代でも日本を代表するゴルフコースとして世界的に評価されています。
ところが、アリソンの招致にも関わり、彼から直接コース設計を学んだ大谷光明以降、日本のコース設計は日本の風土や環境、ゴルファーに合わせてローカライズされていったものなのです。
代表的なものは『リスク&リワード(損失と報酬)』です。リスク覚悟のショットか安全策を選ぶのか、プレイヤーの選択肢が多いかどうかはコース設計の根幹です。
例えば、日本のゴルフコースでは、フェアウェイの真ん中に木が立っている、ということがあります。プロなら木の上を越えられますが、アマチュアは枝に当たったり、根元に転がり次打が狙えないといったことが起き、結果としてショットの選択肢は限られてしまううえ、プレー時間も長くなってしまいます。
世界トップ100のコースには、フェアウェイにこのような木は立っていません。この他にも、池やガードバンカーはグリーンから遠くにあり、ハザードというよりランドスケープとしての機能を主とするものが多い。このように日本と海外では、コースの戦略性に対する考え方が異なるものが少なくないのです」
-では、国際的なコース設計の基本と現代的なトレンドを踏まえた、真に価値あるゴルフコース、本当の意味での“名門コース”とはどのようなものでしょうか?-
「もちろん開場からこれまで紡がれてきたゴルフコースの歴史は重要な要素です。プロトーナメントの開催実績もコースやメンバーシップの価値を上げることでしょう。伝統的な社交場としてのクラブハウスの設えやもてなし、メンバー間の交流など、“このクラブのメンバーになりたい”と思える要素も必要かもしれません。
ただし、そのためにも何度もプレーしたいと思えるコースの魅力、コースの戦略性は不可欠でしょう。現在、世界的なコース設計のトレンドは、フェアウェイを広くし、木々を少なくする一方、芝生以外の背丈のある植生をコースにレイアウトしたり、アンジュレーションをつけるといったことがトレンドとなっています。
プレーヤーがより自然と一体感を得られるのと同時に、芝生の管理面積を減らすことで水や肥料、農薬の管理面積を減らし、コストを削減する一方、環境に配慮し、携わる労働力も抑えられる。コース自体の魅力はもちろん、運営サイドの持続可能性にも配慮したコース設計が求められているのです」
-世界の様々な国や地域でコース設計に関わっているとのことですが、ご説明いただいたような、モダンなコース設計はどこで体験できるのでしょうか?-
「現在、最もホットなエリアは東南アジア。特にベトナムでは、複数の新規プロジェクトが進行しています。これに対し、ゴルフ先進国であるアメリカやイギリスではリモデリング(改修)の依頼が多くなっています。また、韓国では国策として推奨されているためかパブリックコースの依頼が増えています。 産油国であるサウジアラビアでは、スポーツを新たな産業として位置付けたいこともあり、ゴルフへの注力が顕著ですね。
日本のゴルフ場は1970~80年代の高度経済成長期、バブル経済期に建設ラッシュとなっていたこともあり、設備の老朽化の問題など、他のゴルフ先進国同様に、今後リモデリングの必要に迫られるのは確実でしょう」
クラシックモダンに変貌!名門「春日井カントリークラブ」が大規模改修
実は、今回の来日に先駆け、デビッド・デール氏は何度か日本を訪問していいました。その目的は、愛知県・春日井カントリークラブのコース改修にあったのです。
愛知県春日井市に位置する春日井カントリークラブは、1964年開場の歴史ある東西36ホールの丘陵コースです。設計は名匠・井上誠一。過去、日本オープンを始め、数々のトーナメントの開催地となってきた中部エリアを代表する名門です。
今回、開場60周年のアニバーサリーイヤーを記念し、東コース18ホールの大規模改修を実施、その大役をゴルフプラン社へ依頼。しかも、その規模は半端ではありません。現状の2グリーンを、設計当初の1グリーンへと回帰、樹木の選定や一部伐採、多すぎるバンカーの排除と新設など細部まで詳細に手が加えられているのです。上記の写真は、デビッド氏による春日井カントリークラブ改修のマスタープランですが、図面横に記載された改修項目の多さを見れば、その徹底ぶりは目を見張ります。
「元々のコース設計を生かしながら、現代的なゴルフギアやモダンなコース設計、オーナーのニーズなどを加味して、マスタープランを作成しました。当初からプレー時間の短縮が課題としてあったため、飛ばない人に影響しないバンカーを減らし、飛ぶ人に影響する位置へ移設させました。結果的にバンカー面積はトータルで70%削減しましたが、新設したバンカーは背丈よりも深いものもあります。
また、4番ホール、ショートパー3では、1グリーン化に加え、向かって右手前の池を埋め、ショートヒッターにとっての選択肢を増やし、ちょっとしたプレッシャーとまたチャレンジしたいと思えるホール設計へと改修しています。
また、伸びすぎた樹木を伐採し、午前中の日照や通風を確保することで、芝の密度を高めた一方で、斜面やティイングエリア周辺、ホール間に自然の草木を増やすことで、10ヘクタールの面積を無管理化しコストを削減しています。
単に難易度を高めるのではなく、どんな力量のゴルファーでも再訪したくなり、運営のオペレーションにも寄与する、コース設計とは、クライアントのニーズを反映したマスタープランを組み、バジェット(予算)を出し、計画をすすめるまでが仕事なのです」
現代的な要素と世界のコース設計を体感するのも楽しみ方
今年10月の開場60周年に向け、現在、東コースを前面閉鎖し進められている改修工事。コース設計のゴルフプラン社に加え、ゴルフコースの灌水設備には散水を効率化し、ランの出る乾いたフェアウェイを実現する灌水デザイナーやアメリカの灌水設備メーカーのシステムの活用など、最先端のモダンコースデザインの採用が進められている春日井カントリークラブ。
世界のコース設計を体感する意味でも、改修後のコースは一度体験してみたいコースといえるでしょう。
春日井カントリークラブ
*外部サイトに移動します
文 藤井順一
提供元・JPRIME
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