扉の向こうは「崖っぷち」?
ーーまるで違う仕事ですが、求められるスキルや資質に共通点があったんですね。
西脇:あったんです、不思議とどこかでつながる。アナウンサー・弁護士・本の執筆、何をさせていただいても、やってきたことが循環しているんだとあらためて感じています。
弁護士の仕事なら、裁判員裁判。裁判員として選ばれた一般の方が、審理に立ち会って、裁判官とともに被告人が有罪か無罪か、有罪の場合にはどのような刑にするのかを判断します。
通常の裁判であれば、専門用語を使った書類を準備すればいいのですが、それでは初めて裁判を見る人も多い裁判員の方には理解していただけません。
このとき、アナウンサー時代の「わかりやすく伝えよう」としたノウハウが役立ちました。番組で使うフリップやボードを参考に作ったオリジナルのパワーポイントの資料を投影しながら、裁判員のみなさんに「被告人は無罪だ」と説明しました。
さらに裁判員のみなさんに分かっていただくことを目的に弁論の原稿を準備するのですが、その弁論と今回の『孤闘』の執筆は、まったく同じ書き方をしています。
ーー書籍がわかりやすい理由ですね。「業種」にとらわれがちですが、さまざまな岐路で開いたドアがつながっているようです。
西脇:間違った行き先へのドアを開けてしまったと思っても、進んでいけば意外と活路が現れます。それに「スタートまで引き返す」こともできます。扉の先が目に見えるルートではないから悩むし、扉の向こうを「崖っぷち」だと思い込むけど、案外大丈夫(笑)。
その反面、この道が本当に正しかったか、僕にはわかりません。選ばなかった扉の先にも人生はありますから、パラレルストーリーですよね。
ーーご結婚を機にアナウンサー職から、法務職へ異動されたことも人生の決断のひとつですね。その時に会社を辞めて弁護士として働く選択肢はありましたか?
西脇:職場結婚だったので、当時はどちらかの異動は免れにくいものでした。ただ社内で弁護士として働くことも貴重な経験だったので、すぐ退社という扉は見当たらなかったですね。
「時間」は貴重な財産
ーー西脇さんが訴訟を起こすかを悩まれたように、企業で働く従業員として、個人として、それぞれの考えや感情の板挟みになることは、誰にでも起こりうることです。そんな状況に陥った人へどのようにアドバイスしますか?
西脇:会社のため、家族のため、自分自身のために遠慮や我慢をする場面もあると思います。僕にとっても会社は大切にしたい、するべき存在でした。
しかし(会社は)人生を支配するものではなく、あくまで活躍するための「場所」です。最後は、人生はその人のものです。少なくとも会社のものではない。
長短はあっても「時間」はすべての人に与えられています。その時間をどう使って、どんな旅をするのかは貴重な財産で、あなただけのものです、とお伝えしたいですね。