NHKの業務は放送法で定められている。テレビの国内放送や国際放送、ラジオ放送などは行わなければならない「必須業務」としているが、「NHKプラス」や「NHKオンデマンド」「ニュース・防災アプリ」などのインターネット配信は、放送の補完として行うことができる「任意業務」に位置付けられている。NHKはネット配信を必須業務へと“格上げ”すべく躍起になっている。

 総務省は8月末、放送番組の同時・見逃し配信や災害情報などをネットに流す業務をNHKに義務付ける「必須業務」と定める提言案をまとめた。しかも、これにはテレビを持たないネット視聴者にも相応の負担を求めるという内容まで含まれている。有識者会議に出席した松本剛明総務相は「番組をネットでも安定して配信することはNHKの役割であり、制度的な義務付けが必要とされている」と述べている。

 必須業務化を目指す総務省とNHKは、それらしい口実をあれこれ並べるが、要は若者がテレビを見なくなって困ったということが最大の理由だ。早稲田大学社会科学部の有馬哲夫教授はこう話す。

「地方から上京して一人暮らしを始めた学生はテレビを買わないし、親元から通う学生にしても、家でテレビを見ることは少ない。Z世代に限らず、私たちはあらゆる情報をネット、それもスマホから得ている。もはや、テレビ時代のように情報の大部分をテレビから得てはいない」

 総務省・NHKの姿勢に対し、新聞や民放各社は一斉に「民業圧迫」という観点から反対の声を上げており、対立の構図が強まっているようにも見える。しかし、どこか歯切れの悪い部分があるようにも感じられるのはなぜか。

「NHK NEWS WEB」は廃止か

 有馬教授は、NHK業務をめぐる過去の議論の経緯から次のように説明する。

「NHKが現在の地上波デジタルを始めるときも問題になったが、デジタル放送だと映像以外に文字情報もたくさん送れる。当時、NHKは放送以外の新しい業務として、ニュース記事を考えていた。文字情報で新聞みたいなものを流すというわけで、新聞協会は猛反対した。新聞社の支局よりもNHKローカル局の人員は全国的に豊富で、取材した放送記者が書いた記事を出せば、まず全国紙が影響を受けるし、地方紙も売れなくなる。新聞協会の言い分は今回も同じで、動画映像の配信はいいが、文字情報は出すなということだ」

 しかし、NHKはすでに「放送番組の理解増進を図る」名目で「NHK NEWS WEB」という文字ニュースなどを無料でネット展開している。おまけに、トップページを見ると「政治マガジン」という特設の解説記事まで掲載している(12月25日現在は「政治資金問題Q&A」)のがわかる。これは明らかにグレーゾーンを超えており、ジャーナリズムの先輩を自負する新聞各社をもっともイラ立たせるものだ。

 12月に開かれた総務省の協議会でNHKは「ネット独自のコンテンツをつくる考えはない」と表明し、日本新聞協会メディア開発委員会と日本民間放送連盟もこれを支持し、必須業務は「放送と同一にすべき」であると3者が一致した。必須業務化が放送法で改定されれば、「NHK NEWS WEB」などのネット配信文字ニュースは廃止される可能性が出てきた。