採用基準は人物本位――新卒採用では昭和の時代から多くの企業がそう強調してきたが、「人物」には性別や学歴など属性も含まれていた。属性を取り除かないと本来の人物像は見えてこないが、その試みに取り組んだのが三井住友海上火災保険である。社員と学生がDiscordやUnyteなどのオンラインツールを用いて組成したDAO(分散型自立組織)に参加し、DAO内で意見やアイデアを出し合い、参加者の投票によって意思決定を重ねながらワークを進めた。それぞれの発言・作業・アイデアに送り合った「いいね!」の数をトークン化。その量で最終的な評価を決定した。11月1日から約1カ月間実施した結果、評価の可視化ができたという。

 採用手法の精度を高めるポイントは何か。人材研究所シニアコンサルタントの安藤健氏に聞いた。

精度が高いワークサンプル

――三井住友海上火災保険が実施した採用方式、もしくはこの方式に近い採用方式が導入されているケースはあるのでしょうか。

安藤氏(以下、安藤) 同じような採用手法はITベンチャーで多く実施されています。ワークサンプルという手法で、学生をインターンとして受け入れてプロジェクトメンバーに加え、プロジェクトの開始から終了まで、期間としては1カ月から3カ月、長ければ6カ月から1年、社員と一緒に働くかたちです。その間のコミュニケーションの取り方、タスクの進め方、情報連携の仕方、クレーム対処の仕方、リーダーシップ、指示されなくても動ける自立性、組織風土への適応などをメンバーの社員で評価し合い、採用したい学生には人事部が連絡をするという方式です。

 採用方法には、適性検査、面接、リファレンスチェック(学生時代や前職での評価を、当人を知る人に確認)などがありますが、ワークサンプルのほうが精度は高いことが論文でも示されています。例えば面接は会社側と応募者の双方にとって非日常的なやりとりであり、互いに外向きの態度を取るため、仮に1時間向き合っても実態が見えず、応募者が語る学生時代のエピソードから適否を判断することになり、限界があります。その点、ワークサンプルは一緒に働くので、インターンの日常が見えてきます。

――会社が学生を評価する一方で、学生も会社を評価するので、プロジェクトメンバーも厳選する必要がありますね。能力の劣る社員や、会社に対してネガティブな社員はメンバーに入れないといったことはなされるのでしょうか。

安藤 通常、メンバーは人事部が選びますが、選ばれるのはハイパフォーマーな社員、会社に対するエンゲージメントの高い社員です。

――ただ、学生側も、その企業内で上位2割にランクされているような社員ばかりではなく、その他大勢に属する社員の実態はどうなのかと疑問を持つこともあるのではないでしょうか。

安藤 人事部がそうした懸念を持つ場合は、評価が中位クラスの社員もメンバーに加えることもあります。