増大理論者はブランドの変化を受け入れやすい

人格が変わりやすいと考える増大理論者は、ブランド・パーソナリティも変わりやすいと考え、ブランドの新しい戦略を容認しやすいと主張したのは、ヨークストンらです【註12】。ある製品カテゴリーで成功したブランドを使って新たな製品カテゴリーに参入することを「ブランド拡張」といいますが、このブランド拡張戦略への反応を分析しています。

実験では、アイスクリームのドライヤーズ、子供服のオシュコシュ、スニーカーのスケッチャーズ、携帯電話のノキア、ボールペンのペーパーメイトの5つの有名ブランドを対象に、似たような製品カテゴリーからかなり異なる製品カテゴリーまでの5つのブランド拡張の情報を示し、その妥当性を回答してもらいました。分析の結果、増大理論者の方が実体理論者よりも成功すると考える拡張数が多く、いろいろな分野へのブランド拡張を容認する傾向にあることを明らかにしています。

ブランド拡張戦略を対象にした研究は、マートゥルらも行っています【註13】。一般に、類似する製品カテゴリーへの拡張よりも、異なる製品カテゴリーへの拡張の方が難しく、チャレンジングに感じます。マートゥルらは、増大理論者は努力することに前向きなので、実体理論者に比べて異なる製品カテゴリーへのブランド拡張を高く評価し、ブランド・パーソナリティ評価も強化すると考えました。

実験では、「能力」と「誠実」というブランド・パーソナリティを持つシリアル・ブランドのチェリオスを対象とし、グラノラバー(類似する製品カテゴリー)と冷凍ディナー(異なる製品カテゴリー)へのブランド拡張の評価を比較したところ、増大理論者のみ、異なる製品カテゴリーへの拡張によって、能力と誠実という既存のブランド・パーソナリティ評価をさらに高めたことを明らかにしています。

以上の研究より、人格観はブランドの評価に影響を与えることがわかりました。人格は変わらないと考える実体主義者は、自己評価を高めるのにブランドを用いるので、それにつながるブランド・パーソナリティを持つブランドを好む傾向にあります。対照的に、人格は変わると考える増大理論者は自己啓発を重視するので、新しくて難しいことにチャレンジするブランドを高く評価する傾向にあります。企業は、実体理論者と増大理論者それぞれに合った、ブランドのコミュニケーション戦略を考える必要があります。

(文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授)

【参考文献】

【註1】Dweck, C., C.-Y. Chiu and Y.-Y. Hong (1995). Implicit theories and their role in judgments and reactions: A world from two perspectives. Psychological Inquiry, 6 (4), pp. 267-285.

【註2】Levy, S. R., S. J. Stroessner and C. S. Dweck (1998). Stereotype formation and endorsement: The role of implicit theories. Journal of Personality and Social Psychology, 74 (6), pp. 1421-1436.

【註3】Zedelius, C. M., B. C. N. Müller and J. W. Schooler (2017). The Science of Lay Theories: How Beliefs Shape Our Cognition, Behavior, and Health, Springer International Publishing AG.

【註4】Furnham, A. F. (1988). Lay theories: Everyday understanding of problems in the social sciences, Pergamon Press(細江達郎監訳,田名場忍・田名場美雪訳『しろうと理論 -日常性の社会心理学-』北大路書房,1992年).

【註5】Gal, D. (2015). Identity-signaling behavior. In M. I. Norton, D. D. Rucker and C. Lamberton (Eds.), The Cambridge Handbook of Consumer Psychology, Cambridge University Press, pp. 257–281.

【註6】Kimmel, A. J. (2018), Psychological Foundations of Marketing: The keys to Consumer Behavior, 2nd edition, Routledge.

【註7】Aaker, J. L. (1997). Dimensions of brand personality. Journal of Marketing Research, 34(3), pp. 347–356.

【註8】Aaker, J. L., V. Benet-Martinez and J. Garolera (2001). Consumption symbols as carriers of culture: A study of Japanese and Spanish brand personality constructs. Journal of Personality and Social Psychology, 81 (3), pp. 492-508.

【註9】Park, J. K. and D. R. John (2010). Got to get you into my life: Do brand personalities rub off on consumers? Journal of Consumer Research, 37 (4), pp. 655-669.

【註10】Park, J. K. and D. R. John (2014). I think I can, I think I Can: Brand use, self-efficacy, and performance. Journal of Marketing Research, 51 (2), pp. 233-247.

【註11】Park, J. K. and D. R. John (2012). Capitalizing on brand personalities in advertising: The influence of implicit self-theories on ad appeal effectiveness. Journal of Consumer Psychology, 22 (3), pp. 424-432.

【註12】Yorkston, E. A., J. C. Nunes and S. Matta (2010). The malleable brand: The role of implicit theories in evaluating brand extensions, Journal of Marketing, 74 (1), pp. 80-93.

【註13】Mathur, P., S. P. Jain and D. Maheswaran (2012). Consumers’ implicit theories about personality influence their brand personality judgments, Journal of Consumer Psychology, 22 (4), pp. 545-557.

提供元・Business Journal

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