生活のすべてをトヨタ関連に委ねる

 もちろん、トヨタを辞める理由は「立地」だけではない。

「辞める理由で多いのは『やりたかった仕事ではなかった』ことでしょう。基本的にはガチガチの縦割り組織なので、配属の辞令は粛々と受け入れるしかないし、異動の希望はなかなか通らない。企画開発がやりたかったのに、工場に回されたので辞めたという人もいますけど、これは大企業ならどこも同じようなものでしょう。ただクルマ関係でいえばトヨタ以上に大きい会社はないので、辞めて同業他社に行くという話はあまり聞きません。家業を継ぐとか、トヨタで学んだ手法を活かしてコンサルティングを始めたとか、別業種に行く人が多い印象です」(別のトヨタ社員)

 逆にいえば、トヨタの社風と愛知県での暮らしが合っているのであれば、充実した社会人生活が送れるということだ。

「末端の社員でも、トヨタを背負って業界を動かしているような感覚で下請けに大きな態度を取る人もいますからね。そういうタイプは、会社に言われた通りにがむしゃらに働いて、豊田市にトヨタホームの家を建てて、生活のすべてをトヨタ関連に委ねることが、むしろ誇らしいのかもしれません」(同)

 トヨタらしさを理解した社員が、トヨタの息がかかった、都会から少し離れた城下町で渾然一体と働いているからこそ、驚異の生産性が発揮され、世界的企業となったという側面もある。そんな企業風土に耐えられるかどうかは適性があるが、ある男性が発した「立地のみ」という退職理由も、トヨタという会社におけるひとつの真実なのかもしれない。

(文=清談社)

※当サイトは2020年1月5日付け記事『トヨタ、ブラック体質に社員から悲鳴…土曜に職場の飲み会、“自宅残業”が常態化』でトヨタの内情について報じていたが、改めて以下に再掲載する。

――以下、再掲載(肩書・数字・時間表記等は掲載当時のママ)

 日本を代表するリーディングカンパニーで発生したパワーハラスメント自殺が波紋を呼んでいる。毎日新聞などは昨年11月19日、「トヨタ自動車の男性社員(当時28歳)が2017年に自殺したのは、上司のパワハラで適応障害を発症したのが原因だとして、豊田労働基準監督署(愛知県豊田市)が労災認定をした」と報じた。トヨタといえば、日本を代表するグローバル企業であり、手厚い福利厚生と働き方改革に率先して取り組むクリーンなイメージがある。新卒者の就職希望ラインキングでベスト10に入り続ける人気企業でもある。そんなトヨタに何があったのか。