そして、いまも影響力をもつ「ネオコン」。例えば米国防政策委員長のリチャード・パール議長。彼の取材も難儀を極めた。日本メデイアに登場しても、なにも得るものがないからだ。

「永遠に話し合いばかりでは、我々が望む平和など達成できない」

彼のこの言葉でほぼ全てが理解できる。この構図も当時もいまも変わっていない。当時ほどの強い影響力は減少したが、まだまだネオコンの強い存在感を、取材すると感じる。

ネオコンとは言えないものの、密接に関係しているロックフェラー系、金融界や芸能界、メデイアなどで影響力があるユダヤ系米国人。筆者はこれも直接生取材をしたので言える。これらの存在も米国がイスラエルを支援する理由だ。

直接取材で感じたネオコンの多くが明確に言うこと。「圧倒的な米国の軍事力を背景に、中東の地図を書き換える」。しかし、ここの部分は、20年前と比べて現在かなり変容している。

大戦終結後、地球を2分した冷戦が一応終結し、米国の覇権は弱まった。イラク戦争の失敗もあり、求心力を失う。シェールガス利用があり、中東への依存度がますます減少した。トランプ問題が象徴的だが、国内問題が表面化して、自国の問題で苦しみ、大昔のように「孤立主義」に近い「内向き」国家になっている。

極め付きはプーチンのウクライナ侵攻、中国とインドの台頭は20年くらいはあった。だがあの蛮行を切っ掛けに、それまでの反米・非米勢力が昔とは別の形で力を増した。第3の勢力「グローバル・サウス」が、発展途上国と呼んで無視できた昔と違って、いまや存在感をかなり感じる勢力を誇示する。

日本人識者の無知な一部がよく、ウクライナ戦争は「米国が望んだ」「米国が煽った」という。とんでもない話だ。結果としてはあるが、防衛産業を肥やすために戦争をする。軍産複合体の影響はあるし、結果として儲かるのは事実。だがそのために戦争を始めるなどない。そこまで米国はアホではない。全く米国が分かっていない。

米国が望まなかったウクライナと、ほぼ予測できなかった中東の2正面は、ここ10年くらいの対中国政策で手一杯の米国にとって、かなりの重荷になっている。昔は世界相手に善戦した米国は、いまや3正面は無理、2正面でもきつい。

筆者がプーチン軍侵攻直後から何度も書いたように、米国はウクライナ支援から徐々に手を引き、非常に残念で予想が外れることを心より祈るが、ウクライナは「静かに負けていく」。クリミアと東部をプーチンに取られて停戦。だがEUに入り、将来的にはNATOにも入るだろう。プーチンはウクライナという国を無くして、ロシアの一部にしようとした。そこだけは許さない形でひと息つくだろう。

そして、米国がイスラエルを支持する別の理由。これもいまでも有効だ。

やはり20年前、筆者はワシントンDCのJINSA (国家安全保障ユダヤ研究所)の会合にカメラクルーを連れて行った。

同研究所はイスラエル軍、米軍、ロッキード社など米軍需産業関係者が集まる。会合には「現役」の米軍兵士とイスラエル軍兵士も登場した。

もちろん、陰にはモサドらもいる。CIAに近い人間関係も構築できた。イスラエル・米軍の軍事技術の交流、情報交換が進んでいる。

事前に電話で話して取材交渉もしたブライアン副所長。可愛い顔した美人だ。しかし言うことはかなりハードだ。彼女は明言した「イスラエルは米軍よりも実際に兵器を戦場で使っている。新兵器開発の実地テストができる。米軍にとって貴重な仲間だ」

米海軍シールズなどの特殊部隊の標準装備。可視光増幅・サーマル技術利用で、かなりの暗闇でも昼のようにかなり見える。暗視スコープENVG-Bはイスラエル製で、1つの良い例だ。 後日、使わせてもらったが、凄い技術だ。これもイスラエル・米軍の協力の象徴。同じような同盟国と言っても、相手のためには血を流さない日本と違う。米国にとって本当の同盟国、命を賭けてお互いに守り合う仲間。これも米国がイスラエルを支持する理由だ。

米によるイスラエルへの軍事援助は半端ではない。

1981年シャロン国防相訪米、これも取材したが、ワインバーガー国防長官と対談。両国の軍事協力を深めることにした。シャロンは82年レバノン侵攻。PLOを叩き潰す。PLOはレバノンから撤退。

シャロンは難民虐殺で責任を取り辞任。ここをみると、パレスチナ側の主張のイスラエル軍による故意の「民間人虐殺」も信用できる余地が生まれる。過激派で一部なのだろうが、お互いさまだろうが、相手の「民族浄化」意図が見え隠れする。

この拙稿を書いた切っ掛け。つい数日前に日本にいる友人に教えて頂いた。

NHKスペシャル「ドキュメント・エルサレム」の再放送があった。さらなる再放送があると思う。ここに書いたシーンが見られる。是非、御覧下さると幸いです。

驚くべきことは、あの20年前の取材内容と今現在ガザで起きていること、基本的な部分はなにも変わっていない。その遠因の1つ、エルサレムの分割、統治。イスラエルとパレスチナ側で、それぞれ、お互いに少し譲歩することを容認する人々でさえ、いまだに納得いくことができない。それが理解できる。

10月7日のハマスのテロ攻撃。原因を探ると、数百年、いや2000年前まで遡る話になる。

米国がイスラエルを基本的に支持する理由。上記も重要な要因だ。だが、他にも議論に値することがある。

最近の米国の若者は、ガザの住民、パレスチナ人の被害。イスラエル軍による容赦のない空爆で新生児などにも被害が出て、死者が増加している。本当に許せない非人道的な結果だ。だがイスラエル軍はハマスのように市民を「人質」にしたり「人間の盾」として利用することは基本的にやらない。戦争ならなんでもありではない。簡単ではないが、一線を引くことが必要だ。民間人を人質にするなどイスラ自国民が許さない。しかしハマスは平気でやる。ここの違いが日本人はあまり理解しない。だが「巻き添え」や、燃料不足などにより被害者数だけを見みると、確かに異常だ。

当然、日本人の多くや、世界の多く、「米国内の若者」のかなりの数も、イスラエル批判、結果的に一部がハマスであるパレスティナ支援につながる声を上げている。

別稿で書いたが、ガザ病院の爆発。「ハマスの嘘」を多くが信じて騙された。最初はイスラエルに同情的な世論が一気に変わった。日本メデイアの多くも騙された。ハマス宣伝戦の勝利だ。

最悪なのはバイデンが求めたアッバスとの会談がキャンセルになったこと。事態収拾には「2国家共存」しか答えはない。20年以上前と同じ。その可能性を探ることと人道的な譲歩を条件にして「来て欲しい」というネタニヤフの懇願に、バイデンが答えたのに、今回は無駄になった。

そもそもハマスはイスラエルの存在も認めない、当然話もしない。それが基本姿勢なので、そもそも話にならない。

とはいうものの、バイデンのイスラエル政策は、米国内の若者の批判を受けるようになった。支持率も低下しつつある。トランプ問題でさらなる限界が感じられたが、米国民主主義の健全さを示す側面だ。