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イスラエルのために、皆でお祈りしましょう
ここはワシントンDCの議員会館。その中にあるリンゼイ・グラハム上院議員のオフィス。20年前の現場だ。ニックネーム、リンジーは法学博士で、上院司法委員長。大統領候補にもなった。いまでも共和党や米国政治一般にも大きな影響力を与える大物議員だ。
米国の議員。下院議員は435人もいるので、人数が多い分、取材も比較的楽だ。気軽にオフィスに行けば、アポ無しでもインタビューなど取材が可能だ。
一方の上院議員は各州2人だけ。総計100人しかいない。下院議員と比べて、威厳があり、権力もかなりある。筆者がよく取材する米軍など、上院議員が視察に来る時、かなりの緊張が走る。何度も目撃した。下院議員などはあまり相手にされない。
筆者は日本人ジャーナリストなので、取材結果は原則日本で公表される。行政府の米国政府は、基本的に顔は海外にも向けており、日本など海外メデイアにも気を配る。だが立法府の議員、特に上院議員の関心は常に選挙が念頭にあり、米国メデイアばかり。集票に結びつかない海外には非協力的だ。
活字メデイアは特に逃げられる。不都合なことを書かれても、「いや、それは事実ではない」と言い訳が可能だ。だがTVは事実がそのまま映像になる。「そのまんま」だ。しっかり証拠が残るので、後日、否定などできない。
そのため、この時の取材交渉は本当に大変だった。
一般の視聴者はあまりここは考えない。普通に見て終わり。プロにしか分からない世界だ。通常のTVドキュメンタリー番組の多くは、日本のような海外メデイアでも簡単にまとめられる「インタビュー」が中心。自分の主張をカメラの前で言って終わり。特に議員は言いたい放題が多く、いつものように話せばよいと思っている。
そして、冒頭の「拝む」シーン。
なぜ米国は最初から最後まで基本的にイスラエルを支援するのか? 多数の要因と理由がある。その幾つかを実際の進行形の映像化で、筆者は日本人に知ってもらいたかった。インタビューで詳細を話してもらうのは比較的簡単だ。だが、「誤魔化しがきかない」。本当は何が起きているか、そのもの、現在進行形の本物。これをTVカメラで撮影させてもらうのは、成功すれば一番説得力があるが、大変な交渉が必要だった。
そして、TVカメラ持ち込み自体も簡単ではない議員会館。そこにキリスト教・福音派の女性責任者が、共和党の大物、グラハム上院議員に直接会って、陳情する瞬間を撮影することができた。
同上院議員の言葉は以下だ。
アラファトを排除する法案が可決されるように頑張っている、彼はテロを支援する平和の敵だから
イスラエル訪問の時、”神殿の丘”に行けなかった。自由に行けるようにするべきだ
ここも論点の1つ。この取材をしたのは20年前だが、当時もいまも基本的な構図は変わっていない。当時、パレスチナ暫定自治政府PLOのアラファト議長。大きな枠組みで似たような役割といえるいまのハマスなどと比べてもちろんのこと、いまのアッバスより求心力があった。
これもアラファト議長の生発言だが、
「我々は新しい人間を作ります」 「難民を兵士に変えるのだ」 「家のない難民が自由の戦士になるのです」
今のハマスなどと基本は同じだ。パレスチナ人の若者を「戦士」に仕立て上げる。同じ現象が20年以上継続している。
そして、その後、グラハム上院議員のオフィスでは7人が手を結んで、イスラエル支援を神に誓った。手をつないで、
「聞け、イスラエルよ、我らの神、主は唯一の主である」 「あなたは心を尽くし、魂を尽くし、力を尽くして、あなたは神を、主を愛しなさい」
英語ではない。多分ヘブライ語だろう。
キリスト教の一派「福音派」、最大の組織が「全米キリスト教徒連合」創設者、パット・ロバートソン師。彼とも筆者は長時間話を聞いた。
彼曰く、
「米国が同国を支持しないとイスラエルは滅ぶ」 「イスラエルが危機に瀕することは、聖書で大切な神がいうことに反する」 「福音派は米国議会における主導権を持つと言える」 「米国がイスラエルを支持する理由は、私たち福音派がいるからです」
福音派の多くは口を揃えていう。
「アメリカが世界に影響を与える。イスラエルはそこから大きな利益を得ている。米国議会がイスラエルを支持するのは、私たち福音派が存在するからだ」 「キリストが救世主として再び、この世に現れるためには ユダヤ人(イスラエル)が聖地を支配しないといけない」 「カナン=パレステイナ地域は、神様がイスラエル人(ユダヤ人とほぼ同義)に与えると約束された土地」
この時、南部を中心に5000万人以上という福音派、グラハム上院議員など共和党、リーダーの1人、ブッシュ元大統領の重要な支持基盤になっていた。
日本の識者の多くは、米国によるイスラエル支持の大きな理由の1つは「福音派」という。だがその殆どが、伝聞ばかり、他人が書いたこと、言ったことを自分なりに料理して事実かの如く、TVなどで講釈する。このように自分の目で見たり、聞いたり、話したりあまりしていないだろう。
安倍元総理は、歴代の日本総理ではいまだに高評価を得ている。世界の常識「集団的自衛権」を一部実現、現在の対中国対策を視野に入れて、インド・太平洋における早めの仲間作りで、日本の安全保障を高めるのに、ある程度成功した。かなり評価できる。
だが選挙目的だろうが、統一教会の支援をやった。教会の宣伝ビデオで醜態を晒した。確認は取れていない。だが謝礼金は数百万ー数千万円ともいわれる。本当に恥ずかしいことだ。しかし、このように、議員会館の中で、信者と共に、礼拝のような形で拝むようなことはしていない。
この議員会館内での礼拝など、米国でも、簡単に見られるシーンではない。