ウクライナを守る義務は無い

まず、アメリカがウクライナに軍隊を派遣しない理由はそもそも派遣する義務が無いからである。アメリカはウクライナ危機の前後においてヨーロッパ方面に軍を派遣しているが、それはウクライナのためではない。ロシアの行動を懸念視している東ヨーロッパのNATO加盟国への安心供与の主旨がある。

どのような安心供与かといえば、ロシアが一ミリでもNATO加盟国に介入すれば、それ相応の制裁が待っていることを示すためである。そして、そのロシアへの脅しとも取れるアメリカの姿勢の信憑性を増長させるのが、以下のNATO憲章第5条である。

欧州又は北米における一又は二以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に 対する攻撃とみなす。締約国は,武力攻撃が行われたときは,国連憲章の認め る個別的又は集団的自衛権を行使して,北大西洋地域の安全を回復し及び維 持するために必要と認める行動(兵力の使用を含む。)を個別的に及び共同して 直ちにとることにより,攻撃を受けた締約国を援助する。

5条の条文が表すように、NATO加盟国は集団防衛の義務が課されており、それゆえ一加盟国への攻撃はNATO全体への攻撃と認識される。しかし、ウクライナはNATOに加盟しておらず、正式な相互防衛条約を結んでいないため、アメリカは助けない。

しかし、バルカン紛争やイラク戦争などで法的拘束力の有無を度外視して国益を守るために軍事的手段を行使してきたアメリカを知っている者からすれば、義務が無いから助けにいかないというのは、どうしても方便に聞こえてしまう。