海外に関わる犯罪事件は、何も海外に出かける日本人のみが遭遇するものではない。日本国内でも海外発の犯罪事件に巻き込まれるケースもある。
筆者は最近、おいしい話が書かれたFacebookメッセージを受け取り、それをきっかけにその後2週間ほど頻繁にメールのやりとりをした経験をしたので、紹介したい。
見知らぬ人から突然のメッセージ 中にはとってもおいしい話が
ある日突然、ドバイの某銀行の幹部を名乗る方(以下、自称銀行員)からFacebookメッセージが届いた。大事な話があるので電子メールで連絡して欲しいとのこと。そこで、筆者が返信したところ、次のような内容の返信メールが届いた。
「当職はドバイのプライベートバンクに勤務している者である。当職の担当していた顧客にドバイで会社経営をしていたドバイ在住の日系人がいた。彼はインドネシア出張中に2009年9月に発生したスマトラ島沖地震で亡くなった。彼はドバイの当職の勤める銀行に2670万米ドルの預金を残して亡くなった。彼は貴殿と同じ苗字の方であり、貴殿を唯一の親戚として登録していた。貴殿の所在を7年間ずっと探していたが、やっと見つかった。この預金は相続人が見つからないとの管理ステータスになっており、あと1ヶ月で相続人不明の登録をするところであった。相続人不明の登録をすると、それを奇貨として当職の上司が貴殿の預金を着服する可能性がある。半分を当職に呉れるのであれば、当職が貴殿に代わって手続をするが、いかがか。なお、この話が真実であることを証明するものとして、預金証書や当職の社員証、彼が経営していた法人の登記簿の写しを添付する。」
このような添付ファイル付きの電子メールを受け取った。筆者は明らかに怪しい内容のメールだと思ったが、当方からの支払いの必要もなく、万一これが真実の話であり預金の半分を筆者が貰えるのであればラッキーだなという軽い気持ちで、やりとりを続けることとした。その後、次のようなやりとりが続いた。
○筆者→ △自称銀行員:
了解。手続を進めて欲しい。
△自称銀行員→ ○筆者:
了解。手続を進めるためには、国籍やパスポート番号、現住所など、貴殿の情報が必要。
○筆者→ △自称銀行員:
国籍やパスポート番号、現住所など、要求された情報を提供。
△自称銀行員→ ○筆者:
手続を進めるので数日間待って欲しい。
○筆者→ △自称銀行員:
了解。
その後も具体的なやりとりが続く
その後も具体的なやりとりが続いた。内容はさもありなんと思わせる手続の内容で、しかも送信されてくるタイミングも、さもありなんと思わせる絶妙のタイミングで送付されてきた。
(数日後)
△自称銀行員→ ○筆者:
手続を進めているが、貴殿に代わってお金を代理で受け取る弁護士が必要。指定して欲しい。
○筆者→ △自称銀行員:
ドバイの弁護士に知り合いはいない。誰か紹介して欲しい。
△自称銀行員→ ○筆者:
了解。弁護士を紹介する。連絡先は………(電子メールアドレス)。
○筆者→ □自称弁護士:
紹介された弁護士へ電子メールを送付。要件は、筆者の代わりにお金を受け取って欲しいというもの。
(翌日)
□自称弁護士→ ○筆者:
要件はわかった。受任可能。
○筆者→ □自称弁護士:
では手続を進めて欲しい。
○筆者→ △自称銀行員:
紹介された弁護士に連絡を取って了解を得たので、手続を進めて欲しい。
自称銀行員⇒筆者:了解。
(翌日)
□自称弁護士→ ○筆者:
手続を進めるには銀行名、口座名義、口座番号などの情報が必要。必要な情報をリスト化したので教えて欲しい。
○筆者→ △自称銀行員:
自称弁護士から求められた必要な情報リストを転送して照会。
(数日後)
△自称銀行員→ ○筆者:
必要情報の回答あり。
○筆者→ □自称弁護士:
必要情報を転送。
必要経費を前払いとするか受取預金からの控除とするかで折り合いがつかずジ・エンド
(数日後)
□自称弁護士→ ○筆者:
昨日、銀行に訪問してきた。当職の訪問はまさに時宜を得たものであった。銀行は貴殿の預金を、まさに相続人不明の預金として処理をしようとしていたところであった。当職が訪問し交渉した結果、その処理を止めることができた。ついては受取手続を進めることにしたい。預金受取にはドバイ高等裁判所での正式な宣誓書が必要となる。手数料として9800米ドル必要。そのほかに、コンサルティング費用として4070米ドル、管理費用として6110米ドル必要。当職の銀行口座を指定するので送金して欲しい。
○筆者→ □自称弁護士:
必要経費の金額は了解。ただし、前払いではなく、受領した預金から差し引いて支払うこととしたい。
(翌日)
□自称弁護士→ ○筆者:
先に送金して欲しい。
○筆者→ □自称弁護士:
海外送金の方法に慣れていない。受取預金からの控除で是非お願いしたい。
(翌日)
□自称弁護士→ ○筆者:
事後に受け取る金銭から差し引いて手数料を受領することは法律で禁止されている。
○筆者→ □自称弁護士: 当方は日本国の弁護士である。しかし、ドバイの法律には詳しくないから、ドバイのどの法律のどの条文に書いているのか教えて欲しい。
(翌日)
□自称弁護士→ ○筆者: (法律のことには一切触れずに、)手続に必要な経費であり前払いに理解頂きたい。2670米ドルもの大金を受け取るチャンスを逃さないようにされたい。
(このようなやりとりを何度も続けたが議論が行ったり来たりするだけで折り合いが付かず、ジ・エンド)
段々と「もしかしたら本当の話かもしれない」という気に……
上記やりとりからわかるように、ポイントは、手続費用が必要という話を後から持ち出すことによって、支払うという気を起こしやすくすることのようだ。
確かに最初は誰もが疑ってかかるから、手続費用が必要という話を初めに出されるとすぐにお断りということになっていただろう。しかし、数日間にまたがって、何度も何度も、具体的な内容の、迫真に満ちたメールのやりとりをしていると、段々と、この話はもしかしたら本当の話かもしれないという気がしてきた。その後に手続費用の話をされると、うっかり話を信じてしまうのも納得だ。
また、手続費用の金額を、項目ごとに細かく要求し、しかもキリのいい数字とはしないことで、さもありなんと思わせるところが実に巧妙だ。
オレオレ詐欺は自分には関係ない、そんなのに引っ掛かるとはありえない。などとこれまで軽信していたが、筆者は初めて身近な話として感じた。
おいしいメールと国際詐欺に注意を
外務省のホームページを見ると、国際詐欺として有名な事件として、ナイジェリアの「419事件」というものがあるようだ。口座名義の謝礼を払うという話で釣る詐欺事件だ。ほかにも、サッチャー元首相の遺産の一部を相続することができる、アンゴラ反乱軍の亡きリーダーの遺産が政府に没収されないよう協力して欲しい、タリバンに対する秘密作戦遂行中に発見した麻薬絡みの現金をあなたの銀行口座を借りて安全に保管させて欲しい、などといった話で釣る事件があるようだ。筆者の体験したものも、この類の詐欺話であろう。
うかうか話に乗ると、手続費用など経費が必要であるとして送金を求められる。そしてお金を払い込んだが最後、その後は音信不通となる。
世の中、そんなにおいしい“棚からぼた餅”みたいな話があるはずがない。仮に真実だと思ったとしても、外務省に問い合わせたり、弁護士など専門家に相談したりするようにされたい。
文・星川鳥之介(弁護士資格、CFP(R)資格を保有)/ZUU online
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