横浜市港南区にある京急上大岡駅から徒歩20分のマンション敷地で古い擁壁が見つかり、この擁壁の扱いをめぐって住民側はマンションを建てた旭化成ホームズを提訴している。同社は戸建て注文住宅の「ヘーベルハウス」ブランドで知られる住宅メーカーだ。擁壁とは、高低差のある土地で斜面が崩れ落ちないように人工的に作られた壁のことである。城を取り囲む石垣のような石積みやブロックを積んだもの、コンクリートで固めたものなどさまざまある。法律として明記されているわけではないが、擁壁のある土地を所有する人には、擁壁の維持管理責任があると見なされる。万が一、崩落事故などで被害が出た場合、所有するマンション住民らが責任を負うことになる。

 横浜市港南区のそのマンションは2013年完成の7階建てで、100世帯以上が暮らす。敷地面積は8000平方メートル以上だ。10月1日付朝日新聞記事によれば、22年1月、マンションの管理組合は委託する管理会社を変更するために見積もり依頼したところ、敷地内を調べていた新しい管理会社の担当者から「古い擁壁を撤去してほしい」と言われたという。指摘された高さ3~5メートル、長さ約30メートルの石積みの擁壁について、大半の住民が存在を知らなかったそうだ。マンションを購入したときの重要事項説明書にも記載がなかった。調査によって、擁壁内部に空洞があり、ひび割れなどが確認された。補修には1000万円、造り直すには5000万円以上の費用が必要だとわかった。

旭化成が工事費をケチって古い擁壁が残された?

 建築されてから10年もの間、多くの住民らは擁壁の存在を知らなかったとされるが、姫屋不動産コンサルティング代表の姫野秀喜氏は首を傾げる。

「物件を購入するとき、ふつうは敷地全体を確認するはず。擁壁が地中に埋まっていたのならともかく、見たらそれとわかりそうだが、住んでいる人は興味がないから気づかなかったのかもしれないし、管理会社も擁壁のある場所に立ち入らなかったから気づかないというのもあるだろうが、こういう事例には違和感がある」

 前出・朝日新聞記事によれば、旭化成グループが現在のマンションを建てるときに、敷地内にはすでにその擁壁があった。旭化成側は当初、この擁壁を含めて宅地造成の許可申請を横浜市に出したが、市は擁壁の安全が確認できないとして、作り替えなければ申請は通らないと説明したという。そこで旭化成側は擁壁を直さず、擁壁のある区域を宅地造成の敷地から除いて申請したという。その後、建物の建築確認の段階では、旭化成側は擁壁部分を敷地に含めて申請した。これが古い擁壁が残された経緯である。

「そうだとすれば、旭化成が当時の工事費をケチったという可能性がある。もし、本気で擁壁の管理責任と費用をマンション購入者に押し付けるなら、逆に重要事項(説明)に入れますね。例えば、『擁壁の安全性の関係で申請が認められなかったため、本物件の土地はその部分を除いて申請しておりますが、この擁壁については本物件の敷地の一部なので、共同の持ち分に従って擁壁の責任および費用負担で保全をしなければいけません』みたいな文言を入れる。何か入れられなかった理由があったのだろうか。」(姫野氏)

 旭化成は宅地造成の許可申請と建築確認申請の段階で対応を変えている。ことの経緯を見る限り、マンション住民らは騙し討ちにあったような印象で、住民らは損害賠償などを求める訴えを横浜地裁に起こしている。

「この訴えはある程度、認められるだろう。事前に説明されてなかったという時点で住民に分がある」(姫野氏)