ビジネスでの交渉に使える心理学

人は、状況や相手との関係性によって自身の判断を変えます。交渉を成功させるには、人間の心理を理解し、心理的傾向をうまく活用することが重要です。心理学にはビジネスシーンでの交渉に使えるテクニックも多くあるので、厳選してご紹介します。

ドアインザフェイス

「ドアインザフェイス」は、本来の要求を通すため最初に大きな要求をするという心理学に基づいた交渉術です。

例えば、本来の契約金額よりも大きめの額を相手に伝え、一度断られる状況を作ります。その後で本来の契約金額を提示し、あたかも検討して料金を下げたと相手に思わせます。

相手には一度断ってしまった罪悪感があるため、最初から本来の金額で交渉するよりも承諾率が上がります。人間の罪悪感を逆手に取ったビジネスシーンで活用できる心理学です。

フットインザドア

「フットインザドア」は、徐々に要求を大きくし、本命の要求を承諾しやすい状況を作るビジネスでの交渉に使える心理学です。最初に大きな要求を行う「ドアインザフェイス」とは逆の手順で交渉を行います。

例えば、本命の要求が100万円の募金だとしたら、最初の募金額は1,000円から可能であることを伝えます。相手が少額での募金を承諾したら、次の募金額は少しだけ増額します。そうして徐々に要求を大きくし、最終的に本命の要求をします。

フットインザドアは、「一貫性の法則」という心理を活用した交渉術。人は、行動や態度に一貫性を持たせたいという心理的傾向により、要求が徐々に大きくなったとしても次の要求を承諾してしまいます。要求のハードルが高い交渉を行う際に活用してみてください。

ミラー効果

「ミラー効果」はミラーリングとも呼ばれ、同調効果という心理状態を活用したビジネスでの交渉に使える心理学です。

さりげなく相手と同じ言動を取ることで、ミラー効果を狙えます。例えば、さりげなく相手の話すスピードや、声のトーンを合わせるなどがあります。

相手の言動を真似することはミラーリングと呼ばれ、尊敬や好意を伝える際に役立ちます。信頼関係の構築にも繋がるので、まずは良好な関係を築く必要のある初期段階で活用してみてください。

ハロー効果

「ハロー効果」は、相手に対して良い印象を与えたい場合に便利な、ビジネスでの交渉に使える心理学です。ある際立った一面に影響を受けて相手のイメージを決定してしまう心理的傾向を利用します。

例えば、初対面で身なりがきちんとしていると、相手に対してしっかりした人・清潔感がある人という好印象を与えられます。有名大学に通っていたという情報から、仕事ができる人というイメージに繋がることもあります。

ハロー効果は、相手に良い印象を与えて交渉を有利に進めたい場合に活用したい心理学です。

ローボールテクニック

「ローボールテクニック」は、フットインザドア同様に「一貫性の法則」を活用した、ビジネスでの交渉に使える心理学です。最初に提示した条件で承諾を得た後、条件の内容を変更します。

例えば、最初に100万円の契約金を提示し、相手の承諾を得たとします。その後、なんらかの理由を付けて違約金が契約額の2倍かかることを伝えます。相手は一度承諾した手前、話をなかったことにするとは言い出しにくく、こちら側の要求が通る可能性が上がります。

ローボールテクニックは、フットインザドアとよく似たテクニックですが、ローボールテクニックは後から条件を付け足すため相手に与える印象が悪く、恨みを買うケースもあります。同様の手法で交渉するなら、フットインザドアを利用しましょう。

ソクラテス・ストラテジー

「ソクラテス・ストラテジー」は、ソクラテスの問答法を応用した、ビジネスでの交渉に使える心理学です。自分の意見を質問として伝えることで相手から重要な発言を誘導します。

例えば、「納品物の品質はどう考えていますか?」という質問だと「納品されないとわからない」「納品されてから検討する」などと返答されることがあります。

「ソクラテス・ストラテジー」では、その質問を「納品物の品質は優先度が低めなんですね?」と聞きます。すると相手は、「品質の優先度を下げることは考えていない」「品質も妥協したくない」と返答せざるを得ません。

相手の発言を元に、ニーズを満たすための提案ができるようになるのが「ソクラテス・ストラテジー」のメリットです。

アンカリング効果

「アンカリング効果」は、最初に提示された条件をアンカー(基準)にして意思決定を行うという心理効果です。価格交渉や納期交渉の際に使える心理学です。

例えば、価格であれば「通常は10万円のところ今回に限り2万円で対応します」と伝えると、相手は10万円を基準にして2万円で得と損を天秤にかけて判断します。

納期交渉の場合は「通常は7営業日で納品していますが、明日までにお返事いただければ3営業日で納品することが可能です」という伝え方ができます。

アンカリング効果は相手が情報をあまり有していない場合、特に効果を発揮します。相場を理解している相手には通用しないケースもあるので、よく判断してから使いましょう。

シャルパンティエ効果

「シャルパンティエ効果」は、同じ重量の物体でもそのもののイメージに影響されて錯覚してしまう心理的傾向のことです。価格交渉の場面で活用できます。

例えば、1kgの鉄と1kgのプラスチックでは実際の重量は同じです。しかし、鉄とプラスチックそれぞれのイメージに影響されてしまい、1kgの鉄は重く、1kgのプラスチックは軽く錯覚してしまいます。これがシャルパンティエ効果です。

ビジネスシーンでは、商品の金額を伝える際に使うと効果的です。1年間だと120,000円の費用が必要なものでも、月額だと10,000円、週だと250円と表現することで、与えるイメージが変わります。

両面提示

「両面提示」は、相手との信頼関係を築く際に使える心理学です。自社商品のメリット・デメリットを自ら明らかにすることで、相手に誠実な印象を与える心理的効果を期待できます。

両面提示は、さまざまな交渉シーンで使えます。ポイントは、メリット・デメリットを伝えつつ、そのデメリットを超える良さが商品にはあるとアピールすることです。デメリットの印象が残りにくく、交渉を有利に進められます。

イエスセット

「イエスセット」は、相手の「イエス」を引き出す際に使えます。フットインザドアやローボールテクニックと同様に「一貫性の法則」に基づいた、ビジネスでの交渉に使える心理学です。

イエスセットの手法は非常に簡単。「イエス」を引き出したい本命の質問の前に、必ず「イエス」と返答するであろう質問を重ねることです。何度も「イエス」と答えることで、次の質問も同様に「イエス」と言ってしまいやすくなります。

ビジネスシーンでは、すでに共有してもらっている正確な情報を元に質問を重ねましょう。

「新卒採用でお困りのことがあるそうですね」「採用人数の目標は○○人と伺っています」「ご要望にお答えできるプランがありますので、見ていただいてもよろしいでしょうか」など、相手の「イエス」と質問のラリーを行います。

あまり質問が多いと相手に不信感を与えるため、会話のラリーは3回程度が目安です。最後に本命の質問ができるように、1回目・2回目の質問の内容はよく検討してください。

バンドワゴン効果

「バンドワゴン効果」は、大多数に支持されているものに惹かれる心理的傾向のことです。商品やサービスの契約交渉を行う際に活用できる心理学です。

例えば、口コミで高く評価されている商品と、あまり評価が良くない商品とでは、人は評価が高く人気の方を選ぶ傾向があります。

交渉のシーンでは、新規顧客に対してサービスを提案する際に活用できます。実際の数字やデータに基づいた情報を提示する必要はあるものの、一方のサービスを「契約社数○○突破」と表現し、他のサービスと見せ方を変えることで、相手の興味を誘導することができます。

バンドワゴン効果を使う上で注意したいのは、あくまでも相手に興味を持ってもらいやすくするための手法であること。契約後や購入後にサービスの質が悪いと評価されてしまっては、契約数が多くても満足度は低いという数値が出てしまいます。

品質やアフターフォローも含めてビジネス設計されている場合に有効に使えるテクニックです。