産油国の減産や中東情勢の緊迫化などにより、原油価格が高水準にある。実際、ドバイ原油は今年7月末以降1バレル=80ドル台を上回る水準で推移しており、すでに経済活動に影響が及んでいる。原油価格が上昇すれば、企業の投入コストが上昇し、その一部が産出価格に転嫁されるため、変動費の増分が売上高の増分に対して大きいほど利益に対する悪影響が大きくなる。また、価格上昇が最終製品やサービスまで転嫁されれば、家計にとっても消費者物価の上昇を通じて実質購買力の低下をもたらす。そうすると、企業収益の売り上げ面へも悪影響が及び、個人消費や設備投資を通じて経済成長率にも悪影響を及ぼす可能性がある。
特に、原油高が企業活動に及ぼす影響として、ガソリン価格の上昇がある。事実、レギュラーガソリンの全国平均価格は政府の補助金拡充前の8月末に過去最高を付けた。原油価格の上昇で反応するのがガソリンや軽油、灯油の価格だ。また、原油先物価格が上がれば、化石燃料から作られる電気やガス料金も3~5カ月のタイムラグを伴って値上がりする。さらに、原油価格の上昇は船の燃料となる重油やビニールハウスの温度調節に使われる業務用ガソリンなどに影響するため、第1次産業にとっては負担増となり、場合によっては収穫された魚や野菜、果物などの値上がりにも結び付く可能性がある。
他方、世界的にガソリン価格が上がれば、その代替エネルギーとなるバイオ燃料の需要が増える。このため、バイオ燃料の原料となる穀物の値段も上がる。例えば小麦の価格が上がれば麺やパン、菓子類に影響がでるほか、大豆であれば大豆製品や調味料、トウモロコシなら家畜のえさを通じて肉や乳製品の値上がりも誘発されるだろう。このように、原油先物価格の上昇は幅広く企業活動の負担増に結び付くことになる。そして、これから冬に突入して気温が低くなる北半球では暖房需要が増えるため、急激な原油価格の下落は想定しにくい。このため当面の間、家計や企業は原油高に伴う負担増を強いられる可能性が高い。
100ドル/バレル推移+物価高対策なしで24年家計負担+1.4万円
実際、ドル建ての原油先物価格を月平均でみると、ドバイ原油先物は直近ボトムの今年6月から9月は+24.7%上昇している。一方、円も対ドルで減価(円安)していることもあり、円建てドバイ原油先物価格は今年9月時点で直近ボトムの6月から+30.3%上昇している。

そこで、家計への影響を見てみよう。原油価格が上昇すると、タイムラグを伴って消費者物価へ押し上げ圧力が強まることがわかる。事実、2006 年1月以降の原油価格と消費者物価の相関関係を調べると、円建てドバイ原油価格の+1%上昇は8カ月のタイムラグを伴い消費者物価を約0.017%程度押し上げる関係がある。

より現実的な家計への影響について、今後のドル円レートを不変と仮定し、今年度後半以降の原油価格の水準を場合分けして試算すれば、今年度後半以降の原油先物価格が平均80ドル/バレル程度に落ち着けば、24年の円建て原油価格は前年比+4.5%にとどまる。しかし、今年度後半の原油先物価格が平均90ドル/バレルもしくは100ドル/バレル程度で推移したとすれば、24年は前年比でそれぞれ+13.8%、+22.6%になる。
従って、今後のドル円レートが不変と仮定し、政府の物価高対策の影響を考慮しなければ、2021年後半の消費者物価を80ドル/バレルで+0.08%、90ドル/バレルで+0.24%、100ドル/バレルで+0.39%程度押し上げる圧力となり、家計に負担が及ぶことになる。
そこで、具体的な家計への負担額として2022年における二人以上世帯の年平均支出額約349.0万円(総務省「家計調査」)を基にすれば、2024年の家計負担を80ドル/バレルで前年比+0.3万円、90ドル/バレルで同+0.8万円、100ドルバレル同+1.4万円程度増加させる計算になる。