三菱商事独特の人事マネジメント
優れた事業モデルのもと、業績を上げてきた三菱商事。年功序列によって年収は上がるが、インセンティブもあるという。
「三菱商事の新卒社員は、約6年周期で日本と海外を転勤していきます。入社から6年間は日本でビジネスの基礎を学び、その後、世界各地にある取引先に6年間ほど駐在します。その後再び日本で6年間ほど仕事を続け、40歳頃に責任者として海外に異動を命じられるというのが、よくあるケースでしょう。
合計10年以上も海外での生活が続きますが、期間中は基本給に加え、駐在手当をもらえます。その合計金額は、駐在期間中に堅実に貯金をしていけばマイホームの頭金にできるぐらい大きな額になるそうです。しかもそれは一部の幹部候補生だけではなく、多くの社員がこうしたキャリアに進むため、三菱商事のほぼすべての社員はそのような厚遇を受けていると考えていいと思います」(同)
また鈴木氏は、定年退職まで働き続ける割合も多いと推察する。
「部長、本部長クラスになれる優秀な社員は、2000万~3000万円ほどの年収も夢ではありません。一方、出世コースから外れた年収1500万円ぐらいの“働かないおじさん”も特に肩叩きに遭うことなく、働き続けられる会社だと思われます。
会社という組織は、組織に大きく貢献する層が2割程度、そうでもない層が8割程度といわれていますが、総合商社では社員一人ひとりが平等に評価されるシステムとなっています。ですから他の企業の社員からすると、三菱商事は高給取りで終身雇用という組織として羨ましがられるでしょうね」(同)
たしかに、安定して裕福な会社員生活を送れそうな企業ではある。だが、自分たちの稼いだ売上が中高年社員の高額給与や退職金に回されることが、我慢ならないという若手社員もいるのではないだろうか。
「もちろん、上層部に疑問を抱き、内心複雑に思っている社員は多いでしょう。ですが、三菱商事は社員全員を主役に仕立て上げるような人材マネジメントが特徴的な会社でして、社員たちへのガス抜きもとても上手なんです。通常、大きなプロジェクトを100人単位で動かしていく場合、キーマンとなる社員はだいたい2、3人でその他の人間はサポーターになることが多いですよね。
ですが、三菱商事はプロジェクト内の実情は他社と同じようなものの、キーマンもサポーターも含め全員が主役のような扱いをされます。そのため、三菱商事では巨大プロジェクトに関わった社員全員が、“自分がいなければプロジェクトは成立していなかった”と、真剣に思い込んでいる節があるんです」(同)