ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の三宗教を「啓典の民」「アブラハムの宗教」と呼ぶ。啓典の民とは、これら三つの宗教が旧約聖書と伝承を共有していることを意味する。
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アブラハムの宗教と呼ばれる理由は、どの宗教も古代に生きた人物アブラハムを信仰の父祖と見なすからだ。しかし文献学的に詳しくみると旧約聖書そのものが、シュメール神話・古代バビロニアの伝承を継承したと考えられている。たとえばノアの洪水だ。
ノアとウトナピシュティム

画像は「Getty Images」より(画像=『TOCANA』より 引用)
事実として世界中に古代の洪水譚、洪水神話が残っている。それゆえ19世紀末あたりまで、文字通り世界中がエベレストの頂きまで水に浸かったと信じる人々もいた。じつは今でも「創造科学」という疑似科学論者がいる。しかし彼らが主張するように、地球全体を覆う大洪水があった地質学的な痕跡はない。多くの学者は、世界中に残る洪水神話を氷河期後の雪解けによる鉄砲水の記憶だと考えている。
では、旧約聖書・ノアの洪水物語は何なのか。それは古代バビロニア神話に由来すると考えられている。ノアの洪水物語は、アッカド語の「ウトナピシュティム」物語を引き継いでいることが確認されている。
同じように、人類の始祖アダムの物語も、その原型はアダパの物語だと指摘されている。つまりヘブライ語の旧約聖書「創世記」の一部は、おそらくアッカド語やシュメール語に伝わる伝承を基礎に成立した。メソポタミア/バビロニアの神話を土壌にして、花開いたのがユダヤ・キリスト教の聖書、アダムやノアの物語なのだ。