ジャニーズ事務所が「ジャニー喜多川氏の性加害問題」について開いた記者会見をめぐって批判を受ける事態となっている。

ジャニーズ事務所の会見 NHKより

9月7日の1回目の会見でジャニーズ事務所の社名を維持する方針などを公表したが、全く評価されず、スポンサー企業の契約打ち切りなどにつながったことを受け、10月2日の2回目の記者会見を開いて、ジャニーズ事務所の社名を「Smile-up.」と変更し、被害者への賠償を終えたら廃業すること、従前の業務を引き継ぐ新会社を設立することなどを発表し、今回の問題への対応方針を抜本的に改めて再出発をアピールしようとしたが、会見は、質問者の指名をめぐって大荒れとなった。

そして、翌日のNHKの報道で、特定の記者を指名しないようにする「NGリスト」が作成されていたことが明らかになり記者会見での対応自体が大きな批判を浴び、それ自体が一つの「不祥事」となった。

最近、企業の不祥事対応で、大手法律事務所の弁護士チームが危機対応に関わることが多くなったが、今回の記者会見には、東山紀之社長、井ノ原快彦副社長とともに、木目田裕弁護士らが会見者として登壇し、記者の質問に答えるなど前面に出て対応した。その記者会見という危機対応の場で新たな不祥事が発生したことは、企業の危機対応への弁護士の関与の在り方が問われる事態だと言えよう。

私自身も、2004年に、桐蔭横浜大学特任教授・コンプライアンス研究センター長として、コンプライアンスに関する活動を始めて以降、不二家の「消費期限切れ原料使用問題」キリンホールディングスの「メルシャン問題」、田辺三菱製薬の「メドウェイ問題」など多くの企業不祥事で第三者委員会委員長を務め、自ら記者会見等にも臨んできたほか、多くの企業不祥事について当事者の企業に助言・指導を行うなど、危機対応を専門としてきた。

それらの経験を踏まえて、今回のジャニーズ事務所の危機対応について考えてみたい。

「危機対応における不祥事」は極めて異例

2014年に公刊した拙著「企業はなぜ不祥事対応に失敗するのか」(毎日新聞)では、多くの企業不祥事で、マスコミ報道の歪みもあって、企業が誤解を受け、企業側の危機対応の拙劣さのためにその誤解が一層拡大し「巨大不祥事」に発展していること、そこで重要なことは、問題の本質を踏まえて、正しく社会に理解されるような危機対応を行うことであり、そのための戦略を構築することの重要性を指摘した。

弁護士等の危機対応の専門家が企業不祥事に関わることの意味は、当事者の企業が不祥事にしっかりと向き合い、社会的責任を果たす方向に向けること、正当な企業対応によって社会からの信頼を回復させることにある。

企業不祥事への危機対応自体が社会からの批判を浴び「不祥事」となることは、絶対にあってはならないことであり、今回のジャニーズ事務所の問題で起きていることは、危機対応として最悪の失敗と言える。

なぜ、このようなことが起きてしまったのか。

危機対応の失敗2つの要因

第一の問題は、企業不祥事での危機対応は、誰の利益のために、誰の意向にしたがって行うのか、という点だ。

9月7日の1回目の会見では、ジャニーズ事務所の社名をそのまま残そうとしたこと、株式を100%保有するジュリー藤島氏が社長辞任後も代表取締役に残留するとしたこと、ジャニーズ所属タレントの一人で、ジュリー氏とも関係が深い東山紀之氏が社長に就任したことなどに対して多くの疑問の声が上がった。

そこで、10月2日の会見では、それまでの方針を前記のとおり大きく変更することになったのだが、そもそも、最初の方針が「不祥事企業の社長」であったジュリー藤島氏の意向や利益に沿う方向に偏っていたことに根本的な問題がある。

第二の問題は、不祥事企業としての記者会見での対応方針自体の問題だ。記者会見において、ジャニー氏による性加害問題という国際的にも大きな批判を受けている不祥事企業として、説明責任を果たそうとする姿勢が欠けていたと批判されていることである。

木目田弁護士は、2回の会見に同席して記者に説明するなどし、そのような方針や、記者会見対応に法的・コンプライアンス的に問題がないことにお墨付きを与えた形になった。

これらの点について、企業不祥事の危機対応に関わる弁護士の対応の在り方が問題となる。

「ジャニーズ事務所の不祥事」とは何なのか

これらの問題を考える前提として、まず、ジャニーズ事務所がどういう企業で、同社にとって今回の不祥事が、どのようなものかを確認しておく必要がある。

ジャニーズ事務所は、芸能プロダクション事業を営み、多くの人気タレントを擁し、芸能界、テレビ業界等に極めて大きな影響力を有する企業である。非上場企業であるが、売上は推計1000億円と言われている。

その創業者で絶対的権力者だったジャニー喜多川というカリスマ経営者が、数十年間にわたって、タレントとして発掘し育成の対象としていた膨大な数の未成年者に悪質な性加害を繰り返してきたものであり、それが芸能プロダクション企業の事業活動と密接不可分の関係で行われてきた。

そのような性加害行為は、これまでもジャニーズ事務所の内部者には相当程度認識され、その発覚を妨げる対応が続けられてきたが、その問題が文藝春秋との間で民事訴訟に発展し、判決で認定されたこともあり、同社の取引先であったテレビ業界、広告業界等でも、程度の差はあれ性加害行為が認識されることとなった。

ところが、それにもかかわらず、全く問題視されることがなく、ジャニーズ事務所の事業は継続され、ジャニー喜多川氏が死亡した数年後に、英国BBCという海外メディアの報道を契機に、初めて日本国内でも大きな問題として取り上げられる、という異常な経過をたどった。

その性加害者が絶対権力者として経営してきた企業がそのまま存続することは、社会的には到底許容されず、「ジャニーズ事務所」という名称も存在も、この世の中から消し去るしかないというところまで追い込まれているのが、現在の状況だ。