欧米人と日本人ではボディサスペンションの解釈が異なる理由

身体改造ジャーナリスト・ケロッピー前田『モディファイド・フューチャー』刊行記念インタビュー(前編)
(画像=フックを刺して身体を吊り下げる「ボディサスペンション」(撮影:ケロッピー前田)、『TOCANA』より 引用)

――本書のなかで、ボディサスペンションについて「初めてのサスペンションをいきなりみんなに見せたいというのが日本の改造人間たちのプライドだ」と解説されていますよね。私もサスペンションに対して参加型のイメージを持っているのですが、海外ではどういった形で行われることが多いのでしょうか。

ケロッピー前田:アメリカとかヨーロッパにはクラブパーティーの文化があるので、プロのパフォーマーがステージショーとしてサスペンションを行うのが一般的です。素人はサスペンションを受けてみたい!と思い立っても「人前で素を出してまったらどうしよう……」って気後れするらしく、プライベートで受けるのが自然な流れになっていますね。

――プライベートサスペンションはスタジオのような場所で行われるんですか?

ケロッピー前田:うん。実は20年ぐらい前に、ルーカス・スピラという海外のアーティストが来日するタイミングで、本格的なサスペンションパーティーを準備したことがあって。最初は僕もそういうものだと思っていたし、写真を撮りたかったっていうのもあって、撮影スタジオをセッティングしていたんだけど……。

 全員初めてのサスペンションなのに、ほとんどの参加者が「会場に友だちを連れてきてもいいか?」って言うんですよ。大勢の友人たちに応援してもらわないと頑張れないって。それじゃ撮影スタジオでは狭すぎるということで、急遽イベント会場を借りることになりました(笑)。

 今でもそれは変わらず、多くの観客に見守られるなかで吊り下げられるというのが日本スタイルになっています。これってすごく日本人っぽい感覚ですよね。

身体改造ジャーナリスト・ケロッピー前田『モディファイド・フューチャー』刊行記念インタビュー(前編)
(画像=現代ボディサスペンションの生みの親・ステラークが考案したパフォーマンス(撮影:ケロッピ前田),『TOCANA』より 引用)

――欧米人と日本人では受け入れ方が対照的って面白い話ですね!

ケロッピー前田:サスペンションはもともと「モダン・プリミティブズ(現代の原始人)」を提唱するファキール・ムサファーという人物によって、アメリカ先住民の「サンダンスの儀式」が再興されたものなので、向こうの人には「野外で吊られたい」とか「リラックスした雰囲気のなかでやりたい」っていう欲求もあるんですよ。

 西洋人たちは身体改造を通して、西欧文明のなかで一時は失われてしまった痛みを伴う民族儀式を現代的に取り戻そうとしている部分があるので、90年代以降の身体改造の世界的なムーブメントっていうのは、非西欧文化にあった身体改造を蘇らせようとしているとも言えるんです。