先生の役割を変えていく。導入に必要な意識改革とは
--“先生の役割が変わる”となると、大きな改革ですね。
松本:はい。いわば、“業態の転換”なのです。
今あるものは変えずに入れようというのは絶対うまくいかなくて、今あることのどの部分をやめて、ICTに移行するのか。それは何のためにするのかっていうのがすごく大事ですね。
そこに使い手のリテラシーが伴わないと教材のよさを発揮できないということも課題です。そもそもICT教材は、パソコンやタブレットを講師側が使いこなせるかというところに依存してしまう。
たとえばタブレットで宿題を配信すれば、その場で丸付けされるし、解説も出る。夏休みなんかも、先生が休み中にも進捗具合を確認することができますし、休み明けに紙の答案用紙を回収する必要もないわけです。
しかし、未だに紙とパソコンで同じ宿題を配る学校がある。一方で、すでに転換できている学校もある。結局、導入側のリテラシーによって同じ教材でも使われ方が変わってしまうことは我々も課題視しています。
保護者の役割も見つめ直す機会に
--ICT教材の導入は、保護者からも反響がありますか?
松本:ありますね。働きながら子育てするのって本当に大変。今は親が丸付けをすることで子どもの学習状況を把握できるようになっていますが、その負担が大きすぎて逆効果になってしまう例もあります。
そこで、丸付けだけでもICTで自動化できれば親は学習ログを見るだけで子どもの学習状況を把握できますし、データを見ながら親が子どもを褒めるというポジティブな会話にもつながりますよね。
母親が仕事で疲れていて余裕がないと、「今日宿題してないの?なんで学童で終わらせて来ないの」という声掛けになってしまう。ICT教材があれば、自分で宿題を完結できて、疑問もその場で解決できる。
親が教える時間がないからという理由で塾へ通う必要もなく、家でいつでも24時間、自分のペースで1人でも学べるのが、ICT教材の魅力ですね。
--その場で疑問が解決できることで、“楽しい”という気持ちも生まれそうですね。
松本:はい、まさにそうですね。小学生って、まだ勉強じゃなくて“学び”なんです。わくわくして「地球ってなんで丸いの」「空ってなんで青いの」「星ってどうなってるの」とか。
そういう身近なところから湧き出てきた疑問を、子どもが知りたいタイミングで「すらら」の教材は教えてくれるんです。
自分のペースでやるので、興味のままにどんどん進めることができるし、進めるだけじゃなくて「最近ちょっと算数で忘れている単元があるからもう1回やり直そうかな」とか、自発的な管理能力や計画性も身につけられます。これは社会人になってもいきる能力だと思っています。
「すらら」では、その子の学力理解度に合った問題を一問一答形式でどんどん投げてくれて、どこができてないかをAIが学習して診断する機能もあるんですよ。
楽しみながら勉強できて、できることが自然と増えれば、それだけ自己肯定感を積み上げることができます。
--松本さんご自身は子どもとの接し方をどのように考えていますか?
松本:私には娘がいますが、常に支援者として見守る姿勢を大切にしています。「すらら」は、本人が自分の「やりたい」気持ちのままに進めているうちに、自然と自己肯定感の塊みたいになっているので、もう親は毎日「すごいじゃん」って言っているだけです(笑)。
私の考えとしては、“子どもの好奇心を大事にしたい”っていうそれだけなんです。子どものうちからいろんな選択肢を与えたうえで、最終的には“本人に決めさせる”ということを大事にしている。本人が自分で選択できるような環境を整えてあげたい。その1つが「すらら」なんです。
--ICT教材との向き合い方に悩んでいる保護者へ伝えたいことはありますか?
松本:やはり最初はICT教材に不安を持っている保護者の方は多いと思いますし、当社としても教材との付き合い方を精一杯サポートしたいと思っています。
学校や先生のメリットも大切ですが、結局一番子どもに接しているのは親なので、家庭環境で親から受ける影響はやっぱり子どもにとってすごく大きい。
たとえば学校からタブレットが配布されて、家でYouTubeばっかり見るようになった…などといったネガティブなことも親御さんからよく言われます。そこをどう解決するかというところを、我々ももっと発信していかなければならないと思っています。
<インタビュイープロフィール>
松本 梢(まつもと こずえ)
執行役員/マーケティンググループ長 大分県生まれ地元大分県で大学生時代から個人家庭教師のアルバイトを始めたことから教育業界への道に入る。(株)すららネットの前身の会社である、ベンチャー・リンク(東証一部上場)に2007年入社。ICT教材「すらら」で教える初のモデル校兼実証実験校「次世代型学習塾」の塾長として塾経営と学習指導の両方を担う。2010年MBOで独立後、学校部門の責任者として週7日のうち5日は地方出張するなど、営業活動に従事。2016年から塾部門の責任者となり2017年の東証マザーズ(現.東証グロース)上場に貢献。2018年執行役員就任、2021年よりマーケティンググループ統括を兼任する。現場の先生の状況や課題を把握し、人の力が最大限に発揮される『AI教材×人』のベストミックスについて、それぞれの現場にフィットした活用提案をし続ける。1女の母。