お寺やスイミングスクールでも活用、ICT教材の可能性

--学校現場以外でも、ICT教材の活用が広がっているようですね。

松本:はい。最近だと、たとえば英会話やスイミングのスクールでもICT教材が導入されています。

お稽古事って、どこかで止めて学習塾にシフトするパターンになりがちですが、そこをつなぎとめることで、ライフタイムバリューを伸ばしていく。子どもたちにとって学習シーンの選択肢が増えることはもちろん、事業者側にもメリットがあるんですね。

あと、お寺が「すらら」を使って塾をやっている例もあるんですよ。“ゆりかごから墓場まで”という言葉がありますが、地域の檀家さんたちとのコミュニケーションをもっと厚くしていくという形で、袈裟を着たお坊さんがICT教材を使って学習塾を開いています。

--導入側に、勉強を教えるための高度なスキルは必要ないのでしょうか?

松本:むしろ教えるスキルというよりは、学習ログ(データ)をしっかり見て、生徒に対して適切なタイミングで声掛けができたりする、そういうモチベーターとかコーチングができる方は、「すらら」を使うことで個人でも十分に塾を運営できます。実際に現在大手から個人まで合わせると、全国に約1200校あります。

なかには学校の先生だった方が独立する例もありますね。学校現場で管理職になって子どもたちとのコミュニケーションが遠のいてしまったとか、学校組織だと自分の考える指導や教育が十分にできなくて独立するとか、いろんなケースがあります。

ICT教材の導入で失敗しないために

--ICT教材には導入のメリットが多い一方、まだ導入に踏み切っていないところもある。それはなぜでしょうか?

松本:「導入してもうまくいかないのではないか」「どのように活用すべきかわからないから踏み切れない」などの不安は、実際にあると思います。

導入してもうまくいかないパターンとしては、大きく2つあります。

1つは「ICT教材入れたらうまくいくんでしょ」という、目的がはっきりしてない導入です。とりあえずパソコン配ってIDパスワードを渡せば勝手に子どもが進めるだろうっていうケースは、うまくいかないですよね。

結局何のためにICT教材を導入するのかというところが大事なんです。塾ならCS向上とか、今2科目提供だけど5教科に増やして理科社会の提供もしたいとか、その目的っていうところがフワッとしているとなかなか効果が発揮されないですね。

--ICT教材をなぜ導入するのかをしっかり考えておくべきですね。

松本:そうですね。2つめとして、導入に“意識改革”が追い付いていないというケースもあります。

ICT教材の導入においては、先生が教えない代わりにデータで学習ログをしっかり見てその生徒の特性を分析するということが大事なので、要は“自分の役割が変化する”ということなんです。

ICT教材を活用する現場において必要なのは、ティーチングではなく、学習のデザイナー、設計者、伴走者になるということ。

教えることをやめないで、さらに学習ログの分析もやりなさいと言われたら、単純に先生の仕事が増えるだけになってしまいます。

それに、紙の教材を今まで通り使いながら、パソコンでもさらに宿題を出します!って言われたら、生徒も嫌じゃないですか(笑)。

そうなると結局うまく使いこなせないということになり、失敗する。つまり、ICT教材を導入するのであれば、先生という仕事のオペレーション自体を変えないといけないんです。