“家庭学習を見える化”する、デジタル学習の変革
--当時、「eラーニング」はどのくらい世の中に浸透していたのですか?
松本:まったく浸透していない、と言っていいと思います(笑)。2005年に「すらら」の開発に着手したのですが、リリースした2007年ですら、“パソコン学習”と言った方がまだわかるというような状況。当時はまだLL教室などがあった時代ですね。
--LL教室、今となっては懐かしいですね。そもそも「eラーニング」とはどういった定義づけがされているのでしょうか?
松本:じつは今でも「eラーニング」の定義ははっきりしてないところもあるんです。たとえばネット回線を使って勉強することを定義するならば、予備校が大学受験生向けに、講師の動画をいつでもどこでも見れますよというようなサービスは以前からありました。
ただこれは「eラーニング」として認知されていたわけではなかったように思います。
「すらら」のような、いわゆる小中学生向けのデジタル教材を学習塾で取り入れることによって“家庭学習を見える化”することで先生が把握できる領域が広がって、先生がいなくても個別最適な学習ができる…という局面に変わったのは、我々の開発が先駆けになるかと思います。
モデル校を開校、前例のない塾スタイルに挑戦
--2007年にICT教材「すらら」がリリースされた当時、どのように活用が広がったのでしょうか?
松本:「すらら」をリリースしたあと、当社では、駒沢大学駅前にモデル校(実験校)としてキャッチオンという学習塾を開校したんです。私は当時そこで教室長をしていました。
自社で開発したものを売っていくとなったとき、自分が「本当にこれは世の中のためになる」「子どもたちや先生にとってメリットがある」というところをやはりどうしても自分で体感して確信したかったというのがあります。
--モデル校はどのような教室だったのですか?
松本:教室に入ると、パソコンが25台ぐらい並んでいる。塾に来たら、子どもたちが自分でそれぞれパソコン開いてIDパスワード入れて学習する…そんなスタイルは当時、他にはほぼなかった。つまり、保護者からも市民権を得てなかったんです(笑)。
実際に生徒を募集したところ、新しい業態ですし、もちろんまだ認知度もなくて、「安かろう悪かろうなのかな…?」という不安をもちながら申込をされたご家庭もあったと思います。
ただ「それでも申し込みたい」というのが、たとえば“1科目10点しかとれなくて、大手塾、有名塾の集団クラスも個別クラスも家庭教師も全部やった、それでも成果が上がらないからとにかくすがる想いで…”など、そういった親御さんからの声は実際にありました。
さまざまな境遇にいる子どもたちに出会い、現場で実際に自分が生徒指導をして感じたのは、とにかく子どもたちをなんとかサポートしてあげたい、という強い思いでした。

『当時のモデル校「キャッチオン」(※現在は閉校)』
--具体的にどのように子どもたちをサポートされたのですか?
松本:まずはたくさん学習してもらえるように「学び放題」というかたちで、“パソコンが空いているときは週5回いつでも来ていいよ”っていうふうにしたんです。これは、人件費がかからないからこそできるのです。これによって、生徒1人ひとりが圧倒的な学習量を確保できるようになりました。
さらに特徴的だったのが、神奈川や埼玉など、遠方から通ってくれる生徒さんがいて驚きました。
--遠方の学習塾に通うとなると、本人や家庭の負担は増えそうですが…。
松本:そう思いますよね。じつは違うんです。なぜかというと、塾には月に1回ぐらいしか来ないからです。
今でいう通信制高校のスクーリングみたいな形で、目標設定や振り返りを月1回塾でやって、あとは“すべて家でやる”のです。
--なるほど。しかし、家で自主的に勉強することのほうがハードルが高いのでは?
松本:私が1週間に1回ぐらい架電するんです。「すらら」では、管理画面で家庭学習のログが見られるので、そのログイン履歴を見て「目標ちゃんとクリアできているね」「自分でやるって言った時間帯でちゃんとできてるじゃん!」といった感じで声をかけるようにしていました。
ログでは、学習時間も見える化されるので、1分でも10分でも学習時間が増えれば、それが明らかに数字でわかるんですね。
成績って、テストで10点が30点になったとか、点数でしか褒めることができなかったりする。でも本当はそこに上がるためのプロセスが必ずある。
“もともと白紙だったのが途中式は正しく書けたけど最終的には間違っちゃった…”とか、そういうのって点数には現れないところだと思うんですよ。
その努力のところを数値化して、きちんと本人自身も見える形で褒めることができるようになるというのが、ICT教材のいいところなんです。さらに周りも、その生徒に特化した褒め方ができるようになるので、より個別最適な学習が実現できます。