ステーキチェーン「いきなり!ステーキ」は10月6日から一部メニューを値上げすると発表。主力メニュー「ワイルドステーキ」は最も小さい量の150グラムでも1240円(税込み/以下同)と1200円超えとなり、SNS上には「ものすごく高い」「高級ステーキ」「もう行けない」といった声が続出している。安くお腹いっぱいステーキを食べられるとしてブームとなり、一時は490店(2019年12月末)まで店舗網を拡大させたが、現在は6割減の195店舗(23年6月末)まで縮小。運営会社ペッパーフードサービスの23年12月期の最終損益は5.8億円の赤字予想であり、2期連続の赤字を見込む。同社はコロナ禍前を含む18~20年12月期も3期連続の最終赤字となっており、不振の原因はコロナではないとも指摘されているが、なぜ「いきなり!ステーキ」は苦境に陥ったのか、そして値上げ後の価格と品質から判断して「行く価値」はあるといえるのか。業界関係者の見解を交え検証してみたい。
2013年12月に東京・銀座に1号店をオープンした「いきなり!ステーキ」は、高価格帯メニューとされていたステーキを割安な価格、立ち食いスタイルで提供する点などが注目され、瞬く間に店舗網を拡大させていった。変調が見られるようになったのは18年頃、客数が前年同月比マイナスとなる月が続き、同年12月期決算では最終赤字に転落。20年には100店以上の一斉閉店と200人の希望退職募集を発表し、同じく主力事業のステーキチェーン「ペッパーランチ」の売却を決定。さらに減損損失と事業構造改善引当金を計上し一気に改革を進める姿勢を見せたが、以降、売上高の縮小トレンドを抜け出せていない。
「オープン当初、ヒレステーキは1g当たり8円の量り売りで最小サイズは200g、最低でも1600円かかり、当時はそれでも『安い』と世間からは受け止められた。その後は過度な大量出店により同一チェーン内での客の奪い合いが生じたり、時間がたち真新しさが減少することによる利用客の飽き、物価上昇に伴い消費者のコスト感覚がよりシビアになったことなども重なり、客数が減少。準ファストフード店で1回の食事に1000円以上かかるという点も、消費者から拒否反応を招くようになった。
家族客の取り込みを狙ってロードサイド店への出店も進めたが、これがうまくいかなかった点も痛かった。例えば家族4人、一人当たりの単価が飲み物など込みで1500円とすると、合計で6000円にもなる。家族でマクドナルドや牛丼チェーンに行く光景も当たり前になった今、これは高すぎる。一人当たりあと数百円足せば焼肉チェーン店のランチで焼肉食べ放題が食べられるし、ファミレスという選択肢もあるなか、『ステーキやハンバーグだけ』の『いきなり!ステーキ』を選択するとはなりにくい」(外食チェーン関係者)
経営面で問題
同社の経営体質に疑問が寄せられる出来事も後を絶たない。22年、ペッパーフードサービスがHP上に掲載した社内報で、社員に向けて
「お客様に不快な思いをさせたネガティヴな従業員をゆるすことは、到底できません」
「どうやらこのネガティヴ従業員によって大部分のクレームが起こっているようです。『店舗では作業するだけで給料をもらえると思うのは大間違いです。』」
「再三にわたるクレームの当事者は、厳重な処分をします」
と書かれていたことが明るみに。さらに同年には、コスト削減のために料理用ビニール手袋の着用を片手のみにするよう本部が店舗に指示し、店舗のピーク時に両手に手袋を装着して調理していた従業員が、監視カメラで監視している上司から叱責されるケースもあるという事実が発覚したことも記憶に新しい。
業績不振が続くなか、「いきなり!ステーキ」は値上げを重ねている。20年12月、21年12月、22年11月と年1回のペースで値上げを重ね、今回の値上げでは「ワイルドステーキ」150グラムを1090円から1240円へ、同450グラムを2490円から2840円へ値上げする。
「原材料価格の高騰という理由は理解できるが、料理の品質向上やリニューアルが加えられるわけでもなく、顧客から見れば『単なる値上げ』で納得感がない。客離れに拍車をかけるのは必至だろう。ステーキ店という業態が限界なのではなく、競合の『ブロンコビリー』はゆったりとした客席スペースで、セットメニューやサラダバーのリニューアルを頻繁に行うなどファミリー客の獲得に力を入れ、しっかり黒字を維持している。
社内報や調理場での片手手袋問題もそうだが、ペッパーフードサービスには経営面で根本的な問題を抱えているように感じる。昨年には創業者の一瀬邦夫氏が社長を退任したが、その後釜は息子。この危機的な状況のなかでトップ人事で世襲を行うことが、社内外からどのような反応を招くのかが見えていない。繁華街やロードサイドなど好立地な場所に多くの店舗を持つなど、まだ再建の希望はあるだけに、手遅れにならないうちに社長に経営のプロを招へいするなど、過去のしがらみにとらわれない抜本的な改革を進めるべき」(外食チェーン関係者)