新人育成をゲーム開発「人月モデル」の犠牲にさせないために
土台となる「開発と成長を両立するための制度改革」について、宮崎氏は「ゲーム会社のビジネスモデルから必然的に生じる問題への対処」だと断言する。どういうことか。
「当社のようなゲームデベロッパー(開発企業)は、パブリッシャー(発売元)に企画を通して、開発費を出資してもらって開発を行います。具体的な商品でいえば『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』という企画を、発売元であるアニプレックスに通して開発・納品まで進め、売れ行き好調となれば歩合でロイヤリティが発生するという形です。開発費は、開発者1人が1カ月稼働した時(1人月)のコストを元に、開発者の人数と開発期間を積算して支払われます。
ここで問題となるのが、現場で新人がOJTをしていた場合、その分が人月換算されコストに計上されると、それ以外のスタッフがそれを補うために、慢性的な高稼働に陥ってしまうということです。新人を『働きが悪い者』と言うのはもちろん不合理ですが、とはいえ埋め合わせていかざるを得ない負担となっていたのは現実です」
新人育成は当然おろそかにはできないが、現場にとっては「負担」とならざるを得ない。現場は育成より開発優先となり、新人に対して、できる作業をとにかくやらせて少しでもマイナス分を減らす方向で稼働させることが避けられなかったのだ。
「これは良くない、という問題意識を経営・開発の上層部で共有し、新人だけでなくベテラン社員も含めて、成長を促進する体制へと舵を切りました。まず、新卒から1年は戦力にカウントせず、新人を現場の負担にならないようにしました。先述の重点研修、マニュアル化と併せて、新人を最速で戦力化する体制を経営と現場が協力して整えたのです。
そしてもう1点、開発者のキャリアについては所属するディビジョン(部門)が責任を持つことにしました。プロジェクト(開発案件)ありきでスタッフの稼働を決めるのではなく、あくまでディビジョンのリーダーと本人が成長経路を共有し、それに基づいてプロジェクトへの参加を決定します。泥縄式に仕事を割り振るのをやめて、キャリアビジョンと目の前の仕事を結び付けたということです」