樹海、東日本大震災「人間の死に様には国柄が反映される」
――近年は樹海などでも撮影されていらっしゃいますよね。国内と国外で撮影する場合では、ご自身のなかにどのような違いがありますか。
釣崎:やっぱり人間の死に様には、国柄が反映されるものだと思いますよ。それは弔いの儀式なんかにも顕著に表れますけど、日本の場合は治安が良いから殺人事件が海外に比べて圧倒的に少なくて、そのうえ管理も徹底していますから、死体がポロッとこぼれ出るなんてことはあり得ないんです。
一方で、樹海のような場所は世界規模で見ても本当に珍しいです。年間に50~100体ほど上がるんですが、世界的にも突出した自殺の名所といえます。海外からわざわざ樹海を目当てに来日する外国人もいるぐらいですから、とても日本的な死体現場だと思います。

――最初に樹海で撮影を行ったのはいつ頃でしょうか?
釣崎:2007年に初めて樹海に足を踏み入れました。死体を撮り始めて10年以上が経って、そろそろ日本の死の現場も見なければいけないというふうに思ったんです。そうやって祖国を見つめ直す機会が出てきた頃に「東日本大震災」が発生して、国内で撮影を始める決定的なきっかけになりました。
震災が起きて3日目には仙台に向かったんですけど、すでにご遺体は外から見えないようにブルーシートにきれいに包まれた状態でした。まさに死者に対する生きている人たちの気持ちが反映された光景で、ガムテープを引きちぎって中を露出させて写真を撮ろうなどとはまったく考えませんでした。「これは日本的だな、ここまで丁寧な仕事をするのか…」と感動すら覚えましたね。死体を隠蔽してるっていう言い方もできるかもしれないけど、日本人は特に死に対する意識が高いんだと思いますよ。
今でも樹海には定期的に通うことにしています。あいかわらず海外にも撮影に行ってますから、死というものをバランス良く見れるようになったかなと思います。
数千体の死体を撮影してきた男が「死体写真」に込める思い
――前回の『THE DEAD』は死体写真がメインでしたが、今年の1月に写真集『THE LIVING』(東京キララ社)を発表されましたよね。
釣崎:ええ、今回も新宿眼科画廊で写真展を開催しました。死体写真家が撮った死体以外の写真なんて見てもらえるものなのかと心配したんですが、思ってたより反応は良かったですかね。
僕のメインステージはなんと言っても死体現場ですから、僕の死体写真を見ないでいきなりその他の写真を見ても、理解が深まらないと思うんです。『THE LIVING』の世界というのは、普段カメラを向けていない舞台裏として世界観を補完し合う関係にあるものなので、やっぱりまずは死体写真を見た素地のうえで見てもらいたい。生と死、その両方があって世界が完結して、種明かしがされるという仕掛けになっているので、いわばバックステージの現場を切り取った写真集です。

――これまでに数々の紛争地域に足を運ばれていますが、現場には死体もあるけどそこで生きている人もいるということですよね。
釣崎:もちろんそうです。やっぱり人の死というのは決定的瞬間なんですよ。当事者だけでなく、生きている人にとっても決定的な瞬間で、死の現場に居合わせた人間は絶対にその事象にコミットせざるを得ないんです。
ご遺体を目の前にして泣き叫ぶ親族、事故現場をまるでエンタメのように楽しんでいる見物人や見て見ぬふりして去っていく人がいて、そのなかでレスキュー隊が死者に対する敬意を払いながら、プロフェッショナルとして淡々と現場を処理する姿や、葬儀屋さんの死に対する向き合い方とか。死というのは生きている人の視線を通して表現されるものなので、生者の立ち居振る舞いには、根源的な人間性が表れるんです。

釣崎:結局、死体というのは動かないしものを言うこともないので、生きる者しか死者の代弁はできません。生と死のどっちが重いとか世界の半分というよりも、僕らは生者の世界に生きているわけですから、どうしたって死者をこちら側の視点でしか解釈することができない。それでも死体現場は、生者と死者、その両方が写り込む特権的な空間、ドラマチックな空間だと思います。
死者は死者で被写体として圧倒的な力を持っているので、それ自体をカメラに収めることでアートとして成立はするんですけど、僕の興味は生きる者の視点を通して浮き彫りになる死者と生者の葛藤です。死者を忖度して、それなりに丁重に扱いながら弔うという場面は実に人間性が表れる部分で、アートとしてもすごく面白いテーマだと思っています。

――現代アートの分野などでも”生と死をテーマにした作品作り”というのはよく言われることですが、その点に関してはいかがですか。
釣崎:発表していない作品も含めると、これまでに2000から3000の死体を撮影してきているんですけど、その結論として、ああいう作品はほとんどが嘘だと思っています。頭でいくら考えたところで偽物です。死者の代弁をしていないうえに自分のエゴを投影しようとしたり、それだと面白くないですね。
――そこにはもう思想はいらないということでしょうか?
釣崎:思想性は滲み出るものじゃないですかね。やっぱり死者を操り人形のようにして、作者の主張を語らせようとするじゃないですか。それはそれであっていい立場だと思うけれど、数千体の本物の死体と対峙してきた結果、死者が生者よりも圧倒的に語りかけてくる存在であることを知っているので、僕にとって死体はそういう対象ではありませんね。
真相を追求したいという気持ちはあるけど、今のところ確らしい答えとかいうものに近づいているとも思いません。突き詰めた時にどういう世界が広がっているのか、はたしてそれが目の前に表れるか、僕にはまだわからない。ただ、世の中の表現者のなかでそこに最も近い立場にいるアーティストは自分だと思っています。
釣崎清隆死体写真展
『DAYS OF THE DEAD 2023』
【会期】9月1日(金)~30日(土) 7:00〜18:00 19:00〜6:00
【会場】BAR DOQUDOQU
東京都新宿区歌舞伎町2-39-2三幸ビルB館4F
Twitter:@BAR_DOQUDOQU
【特別上映(20:00〜)】9月8日(金)『死化粧師オロスコ』・22日(金)『ジャンクフィルム 釣崎清隆残酷短編集』・29日(金)『ウェイストランド』
■釣崎清隆
写真家・映画監督・文筆家。学生時代から自主映画制作、文筆活動に従事し、AV監督を経て平成6年から写真家として活動開始。ヒトの死体を被写体にタイ、コロンビア、メキシコ、ロシア、パレスチナなど世界各国の無法地帯、紛争地域を取材してきた。写真集『DEATH:PHOTOGRAPHY 1994-2011』(Creation Books)、『THE DEAD』(東京キララ社)、著書『死者の書』(三才ブックス)、『原子力戦争の犬たち 福島第一原発戦記』(東京キララ社)ほか、DVD『ジャンクフィルム』(アップリンク)など多数。2023年1月、写真集『THE LIVING』(東京キララ社)を発表。
Twitter:@tsurisaki
Instagram:kiyotaka_tsurisaki
YouTube:@tsurisakikiyotakaofficial
文=浅香麻亜弥(トカナ編集部)
提供元・TOCANA
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