日本のフッ化水素の輸出状況
図4に、日本から諸外国へのフッ化水素の輸出量、および日本の輸出量の合計を示す。筆者は、この検索結果は何かが間違っていると思って、何度もやり直した。しかし、何度やっても同じ結果になってしまった。

日本がフッ化水素を輸出している主な国には、韓国、中国、台湾、シンガポール、米国などがある。他にも、イスラエル、英国、イタリア、フィリピン、タイ、ドイツ、ベルギー、ブラジルなども、ときどき顔を出すが、それらの国への輸出量は微々たるものである。そして驚くことに、日本のフッ化水素の輸出は、ほぼ韓国一国であるといっても過言ではないのである。韓国とそれ以外の国では、桁が大きく異なるのだ。日本にとって、韓国ビジネスがどれだけ大きいかを図5に示す。日本のフッ化水素ビジネスは、韓国向けとともに成長してきたといえる。2011年以降は、日本の輸出量の90%以上が韓国向けになる。2015年は96.7%、2016年は96.1%が韓国向けだ。

そして、輸出規制の前年の2018年には、韓国向けが3万6824トン、輸出の合計が3万9720トンと、いずれも過去最高を記録する。ところが、2019年に輸出規制がなされ、2020年には、韓国向けが4950トン、輸出の合計も9614トンと激減してしまう。その後、日本のフッ化水素の輸出量は低迷したままである。
安倍内閣の報復措置がフッ化水素ビジネスを破壊した
森田化学やステラケミファを柱とした日本のフッ化水素ビジネスは、韓国向けを強化することによって成長してきたといえよう。そして、日本のフッ化水素ビジネスは、日本が誇る強力な半導体材料産業の一角を占めていたはずである。ところが、そのフッ化水素ビジネスを日本政府が破壊してしまったのである。冒頭で述べた通り、日韓政府が関係を改善したところで、破壊されたフッ化水素ビジネスは、もとには戻らない。そして、『安倍晋三 回顧録』によれば、2022年7月に暗殺された安倍元首相は、次のように語っていたという(2023年2月23日付「Chosun Online」<朝鮮日報>より)。
<「文在寅(ムン・ジェイン)は確信犯」だとし、韓日関係が破綻した責任は韓国の文政権にあると主張した―中略―日本政府の韓国向け半導体素材輸出規制について「徴用工賠償判決の後、何も解決策を出さない文在寅政権に対応する過程で出た」とし「二つの問題が連結されているかのようにして、韓国が徴用問題を深刻に受け止めるようにした」>
要するに、安倍内閣が2019年7月1日に韓国に対して半導体3材料の輸出を規制したのは、明らかな報復措置だったわけである。ところが、その報復措置はブーメランのように返ってきて、日本のフッ化水素ビジネスを破壊した。
筆者は、2021年6月1日に行った衆議院の意見陳述で、「歴史的に、経産省、革新機構、政策銀が出てきた時点でアウト」と述べた。本稿の最後で、これを訂正したい。「歴史的に、日本政府(内閣)、経産省、革新機構、政策銀が出てきた時点でアウト」である。あろうことか、内閣と経産省が、日本の強力な半導体材料産業の一角を破壊したのである。筆者は、内閣と経産省に対して猛省を要求する。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)
お知らせ
4月20日に、『半導体有事』(文春新書)を出版する予定です(図6)。

提供元・Business Journal
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