輸出量が激減したフッ化水素

 図1に、「財務省貿易統計」のデータベースで検索した、日本から韓国へのフッ化水素の輸出量と輸出額の月次の推移を示す。

安倍内閣と経産省が半導体材料産業の一角を破壊した…韓国への輸出規制は歴史的愚策
(画像=『Business Journal』より 引用)

 輸出量(トン)と輸出額(億円)の挙動は概ね一致している。そして、日本政府が輸出規制を行った2019年7月に、輸出量も輸出額も大きく落ち込む。2019年6月に2933トンだった韓国への輸出量は、同年7月に16%の479トンに減少し、同年8月と9月はなんとゼロになる。2019年12月以降にやや回復するが、500トン前後で推移しており、輸出規制前の3000トン前後には戻らない。経済産業省は、「輸出規制ではない。日本企業の申請に対して適切な審査を行った上で韓国への輸出を許可している」というようなことを言っていたが、それが虚偽の答弁であることが一目瞭然である。本当にフッ化水素の輸出量がゼロになったからだ。

 そして、この輸出規制は韓国の半導体メーカーに甚大なダメージを与えた。サムスン電子もSKハイニックスも、日本以外からの代替調達にてんてこ舞いになっただろう。その理由は以下の通りである。例えば、半導体に1000ステップの製造工程があったとすると、300~400ステップが洗浄工程であり、約100工程がフッ化水素の洗浄(またはウェットエッチング)工程である(図2)。しかも、約100工程はすべて同じ成分ではなく、洗浄する薄膜の種類によってレシピがある。そして、そのようなフッ化水素は、半導体工場に1カ月程度の備蓄しかない。

安倍内閣と経産省が半導体材料産業の一角を破壊した…韓国への輸出規制は歴史的愚策
(画像=『Business Journal』より 引用)

 もし、その備蓄が切れてしまったら、本当にメモリもロジックも、先端もレガシーも、半導体は1個もできなくなるのである。だからといって、すぐに日本の森田化学工業とステラケミファ製のフッ化水素から、中国や台湾製に切り替えることも難しい。したがって、サムスンとSKハイニックスは、危機的状況に追い詰められた可能性がある。ただし、不幸中の幸いだったのは、2019年はメモリ不況の1年だったことである。といっても、やはりサムスンとSKハイニックスは綱渡りの工場稼働を強いられたのではないか。

韓国向けで成長してきた日本のフッ化水素ビジネス

 今度は、2001年から2022年までの韓国への輸出量の年次推移をグラフにしてみた(図3)。2001年に4176トンだった輸出量は、2018年に約9倍の3万6824トンに増大する。つまり、韓国向けフッ化水素ビジネスは、ほぼ右肩上がりに成長してきたといえる。ところが、輸出規制が行われた後の2020年に、2018年のわずか13%の4950トンまで減少し、その後も6000トン強程度にしかならない。輸出金額では、2001年の7.4億円から2018年には約10倍の74.9億円に拡大する。しかし、輸出規制後の2020年には、わずか17%の12.8億円まで減少し、その後も20億円には届かない低空飛行が続いている。

安倍内閣と経産省が半導体材料産業の一角を破壊した…韓国への輸出規制は歴史的愚策
(画像=『Business Journal』より 引用)

 ここで、「財務省貿易統計」のデータベースを調べている際に、日本は韓国以外には、どのような国に、どのくらいのフッ化水素を輸出しているか、日本のフッ化水素の輸出量の合計はどのくらいか、ということを調べてみたくなった。その結果は、予想外の驚く事態となった。