9月8日、2019年7月の参院選広島選挙区をめぐる公選法違反(買収)事件で、検察当局が20年1月に河井克行元法相の自宅を家宅捜索した際、当時の安倍晋三首相をはじめ安倍政権の幹部4人から現金計6700万円を受け取った疑いを示すメモを発見し、押収していたことを、地方紙中国新聞が報じた(「(独自)河井元法相、買収原資は安倍政権中枢からか 4人から6700万円思わせるメモ 自宅から検察押収」)。

同記事では、メモの内容について

関係者によるとメモはA4判。上半分に「第3 7500万円」「第7 7500万円」と書かれ、それぞれ入金された時期が付記されている。その下に「+(プラス)現金6700」と手書きで記され、さらにその下に「総理2800 すがっち500 幹事長3300 甘利100」と手書きされていた。

このメモに関する検察捜査について

検察当局は、元法相が広島県内の地方議員や後援会員に現金を配り回った買収の原資だった可能性があるとみて捜査していたが、当時の安倍晋三首相らを聴取することはなかった。あくまで河井克行元法相の立件に焦点を絞り、ときの政権中枢への捜査に及び腰だった

としている。

この参院選での広島選挙区では、案里氏が、2人目の自民党公認候補として立候補して当選したが、広島地検特別刑事部の捜査に、途中から東京地検特捜部が加わった検察捜査により、夫の克行氏とともに、買収事件で逮捕・起訴され、当選無効となり失職した。

自民党本部から河井夫妻が代表を務める自民党支部には、公示の3か月前から直前までの間に合計1億5千万円が振り込まれていた事実も明らかとなり、それらが現金買収の原資になった疑いも指摘されたが、結局、自民党本部に対する強制捜査は行われず、2021年9月、自民党本部が、この1億5000万円が、買収資金には充てられていなかったとの調査結果を公表したことで、自民党本部からの買収資金の提供疑惑は「幕引き」となっていた。

今回、中国新聞が報じたのは、このような自民党本部から河井夫妻の政党支部への資金提供とは別に、当時の安倍首相をはじめ自民党幹部から、合計6700万円もの多額の現金が河井夫妻の下にわたっていた事実である。

中国新聞は、「メモ魔の記録「総理、すがっち、幹事長、甘利」 政権中枢の4人、案里氏を全面支援 河井元法相の自宅メモ」と題する続報で、メモの信ぴょう性について、以下のように、述べている。

「総理」「すがっち」「幹事長」「甘利」―。克行氏が書き留めていた四つの単語だ。買収事件の捜査に当たった検察当局は、それぞれ安倍晋三首相▽菅義偉官房長官▽二階俊博自民党幹事長▽甘利明同党選挙対策委員長(肩書はいずれも19年参院選当時)とみていた。

金額が最も多い二階氏は幹事長として党内の選挙資金を差配する立場にあった。19年の政治資金収支報告書によると、10億円超の党の政策活動費を預かっていた。案里氏は参院選の立候補を「二階さんからの打診」と周囲に語っており、当選後に派閥へ迎え入れたのも二階氏だった。

さらに安倍、菅両氏も含めた3人は選挙中に広島に入り、街頭やホテルで案里氏の応援マイクを握った。中でも二階、菅の両氏は現職で岸田派幹部だった溝手顕正氏の支援は一切せず、案里氏だけを推す肩入れぶりだった。甘利氏は案里氏の擁立時、選対委員長として候補者調整を仕切った。

選挙戦の前後を通じ、再三、政権の「威光」を周囲に誇っていたのが克行氏だった。「案里さんのバックは安倍政権そのものなんだよ」。選挙中、中国新聞の取材にもこう語っていた。

地方議員や後援会員らに現金を配り歩き、一部の議員には「総理から」「安倍さんから」と手渡した。案里氏も「二階さんから」と言い添えて県議に現金を渡していた。夫妻の言動は克行氏のメモの記載と符合する。

克行氏は元来、「メモ魔」とされ、日ごろのささいな出来事の記録も残したがる性格だったという。元事務所スタッフの一人は「とにかく何でもメモに残す。われわれもいつもメモを取れと指示されていた」と明かす。

これらは、いずれも、メモの信ぴょう性を裏付ける重要な間接事実である。

同記事は、最後に、次のように述べている。

買収事件の重要証拠となった広島県議らの名前と現金授受額を羅列したメモに加えて今回、政権幹部名を手書きしたメモの存在も明るみに出た。自らの公判では買収についての安倍政権の関与を否定し、資金の出どころは「たんす預金」などと主張していた克行氏。皮肉にも自らの記録によって、政権の重大な疑義が浮き彫りになった。

中国新聞は、これらの記事を受け、「河井元法相の立件優先、政権捜査に及び腰 メモ押収の検察」と題する解説記事で、

政権幹部による多額の現金提供の疑いを示すメモを発見、押収したものの、検察当局が当時の安倍晋三首相らを聴取することはなかった。あくまで河井克行元法相の立件に焦点を絞り、ときの政権中枢への捜査に及び腰だった検察の姿勢が透けて見える。

としている。

そのような事実を把握していたのであれば、検察当局として、政権中枢に対する強制捜査も含め、(「及び腰」にならず)積極的に捜査をすべきだったのではないか、というのが中国新聞の論調である。