TSMCのケース

インテルに代わって、最先端に躍り出たのがTSMCである。TSMCが最先端の微細化の基盤を築いたのは、2014年である。TSMCはこの年、“Nighthawk Project”を立ち上げ、24時間体制でR&D(研究開発)を行った。そして、インテルが躓(つまず)いた10nmを全力で立ち上げた。その後、TSMCは図1に示す通り、2018年に7nm、2019年に世界で初めて最先端露光装置EUVを量産適用した7nm+、2020年に5nm、2021年に4nm(5nmの改良版)、2022年12月に3nmと、最先端の微細化を独走している。

それではTSMCには、どのくらいの社員がいるのだろうか。図3を見ると、EUVを量産適用した2019年以降、社員数が急増している。2019年に5.13万人だったが、2020年に5.5千人増えて5.68万人になり、2021年には8.3千人増えて6.52万人になった。そして、2022年に7.9千人増えて7.3万人に増えた。その結果、何とTSMCは、2018年からの4年間で社員数が2.43万人増えて(毎年平均6千人増)、約1.5倍になったのである。恐らく、増えた社員のほとんどがR&D技術者ではないかと推察する。そして、今後もTSMCの社員数は増大していくだろう。

社員200人のラピダス、2nm半導体の量産は困難な理由…TSMCは7万人以上
(画像=『Business Journal』より引用)

ある知人は、「TSMCが蟻(あり)地獄のように技術者を吸収している」と言った。またもう一人の知人は、「TSMCはまるでブラックホールだ」と言った。台湾だけでなく世界各国から、とびきり優秀な技術者がTSMCに集結しているのである。では、TSMCの社員7.3万人(2022年時点)のうち、何人がR&Dに従事しているのだろうか?

TSMCが「グローバルR&Dセンター」を開設

TSMCは2023年7月28日、同社初の研究センターとなる「グローバルR&Dセンター」を、本社近くの台湾新竹県に開設したと発表した(7月28日付日本経済新聞より)。この記事によれば、グローバルR&Dセンターは、地上10階、地下7階で、建屋面積は2万平方メートルであり、同年9月までに台湾域内に分散する技術者約7000人以上を同施設に集結させるという。そして、2023年6月時点でTSMCには約8700人の技術者がいると書かれている。ということは、TSMCの社員数は2022年末時点で7.3万人であり、そのうち技術者が約8700人いる(2023年6月時点)。これは、全社員数の11%に相当する。つまり、TSMCの11人に1人は技術者である。そして、この技術者が24時間体制で、最先端の微細化の技術を死に物狂いで開発している。

半導体で「最先端を行く」とはどういうことか?

2016年まで世界最先端の微細化を推進していたインテルは、その当時約10万人の社員がおり、そのうち恐らく数万人が技術者だったと思われる。また、インテルに代わって最先端に躍り出たTSMCは、2018年以降に毎年社員を平均6000人増大させている。そして、24時間体制でR&Dを行っており、その技術者数は2023年6月時点で約8700人いる。つまり、半導体で「最先端を行く」ということは、このような規模の社員や技術者が必要だということである(いや、インテルは現在13万人超の社員がいるが、それでも最先端の微細化がうまくいかない状態にある)。

翻って、ラピダスはどうなのか。「2027年までに2nmを量産する」と威勢は良いものの、現在の社員数は200人程度であり、米IBMに派遣されている技術者は60人である。インテルやTSMCと比べると、桁が二桁小さい。ラピダス(だけでなく日本)には40nm以降の技術の基盤がない、世界からとびきり優秀な技術者が集まるわけでもない、そして社員数も技術者数も二桁足りない。この状況で、「2027年までに2nmを量産」などできるわけがない。ラピダスは、最先端の微細化を舐めていないか。もう少し冷静に己の実力を見つめなおし、計画を再考するべきだろう。違いますか。

(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

提供元・Business Journal

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