つみたてNISA(積立NISA)のメリットの一つは、最長20年間の非課税期間だ。非課税期間終了後は通常の課税口座に移すことになるが、場合によっては余計な税金が発生してしまう。どのようなケースが当てはまるのかを理解し、売却タイミングについて考えよう。

つみたてNISA(積立NISA)の非課税投資期間は2037年まで、制度改正後は2042年まで

つみたてNISAには年間40万円の非課税投資枠があり、40万円の投資枠は毎年付与される。現行のつみたてNISAを利用して非課税で投資できるのは2037年までだが、2024年から制度改正が予定されている。改正後のつみたてNISAは現行よりも5年間延長され、2042年まで投資できるようになる。

投資できるというのは、その年につみたてNISAの非課税期間が終了するのではなく、つみたてNISAで投資信託を購入できる最後の年が2037年(改正後は2042年)という意味だ。最後の年に購入した投資信託は、2056年(改正後は2061年)まで非課税で運用でき、改正後も20年間の非課税期間は変わらない。

つみたてNISAが延長されることは利用者にとって大きなメリットであり、可能な範囲で最大限活用していきたい。

つみたてNISA(積立NISA)の非課税期間終了後、課税口座に移行すると損することも

つみたてNISAの20年の非課税期間内に保有商品を売却しなかったらどうなるのだろうか。

つみたてNISAの非課税期間終了時に保有する投資信託は、課税口座(つみたてNISA以外の一般口座や特定口座)に移されるが、非課税期間終了時の時価で移されるのがポイントだ。移行時点の時価が投資元本より高いか安いか(値上がりしたかどうか)で課税の取扱いが変わる。それぞれのケースを確認したい。

ケース1……投資元本より値上がりした状態で課税口座に移行

<条件>

  • つみたてNISAで投資信託Aを40万円分購入した。
  • 非課税期間終了時は元本が60万円に値上がりしていた。
  • 課税口座に移行して、値上がりまたは値下がり後に売却。

    課税口座には時価で移されるため、投資信託Aの投資元本は60万円に変更される。移行後に60万円から80万円に値上がりした場合、差額の20万円が課税対象だ。60万円から50万円に値下がりしても課税はされない。課税口座に移行した時点で投資元本は60万円に変更されているため、10万円の「損失」となるからだ。

    ケース1ではいずれの場合も投資元本より増えているため、損になることはない。注意したいのはケース2だ。

ケース2……投資元本より値下がりした状態で課税口座に移行

<条件>

  • つみたてNISAで投資信託Aを40万円分購入した。
  • 非課税期間終了時は元本が30万円に値下がりしていた。
  • 課税口座に移行して、値上がりまたは値下がり後に売却。

    課税口座に移行後、投資信託Aの投資元本は30万円に変更される。移行後に30万円から40万円に値上がりした場合、差額の10万円に課税されてしまう。元々の投資元本は40万円であり本来なら課税されない。課税口座に移行した時の時価30万円が基準となるため、「利益」扱いになってしまうのだ。30万円から20万円に値下がりした場合には、当然課税されない。

つみたてNISA(積立NISA)から課税口座に移す際の対処法

ケース1は最終的に投資元本が増えているため、移行後に課税されても問題ないだろう。問題はケース2だ。投資元本から値下がりしているにも関わらず、課税口座に移行させたことによって課税されることもある。これを回避するには非課税期間終了前に売却(損失確定)するか、投資元本を上回るまで運用を続けるかだ。

売却して損失を確定させるのは勇気がいるかもしれないが、その資金が必要なら売却するべきだろう。見送ればさらに値下がりする可能性もある。

使う予定のないお金なら、課税口座に移して運用を続けるのもいいだろう。長期で運用するほうがリターンは安定しやすい。投資にはアップダウンがあるため、一時の評価損と割り切ることも大切だ。

つみたてNISA(積立NISA)を非課税期間に売却する2つのタイミング

つみたてNISAの資産を課税口座に移行すると税金がかかってしまうことことがあるため、基本的には20年間の非課税期間内につみたてNISAの資産を売却することを想定しておきたい。もちろんつみたてNISAの運用資金が最大限に増えているときに売却できればいいが、利益を基準にすると一喜一憂してしまう。

つみたてNISAを売却するベストタイミングは、利益以外の2つの視点を持つようにしよう。

⑴資金が必要な時期に売却する

つみたてNISAを売却するタイミングの1つは、資金が必要になったときだ。資金が必要になるといっても、生活費や買い物の決済で使うためではない。その人のライフイベントが発生する時期をつみたてNISAの売却の目安としよう。

例えば子供の教育資金で大きなお金が必要になったときやセカンドライフを迎えたり、親や自分の介護が必要になったりしたときだ。ほかにも結婚資金や出産前後にかかる資金のための売却なども考えられる。

ライフイベントを売却タイミングにすると余計な欲に惑わされることもないだろう。あらかじめ売却するライフイベントを決めておけば、それを目標にして資産配分のリスクを調整できる。つみたてNISAは将来に向けた投資であり、本当に必要なものにお金を使うためにライフイベントを売却時期の目安にするといいだろう。

⑵つみたてNISA(積立NISA)での目標金額を達成したら売却する

つみたてNISAのもう1つの売却タイミングは、つみたてNISAで目標とする金額を達成したときだ。つみたてNISAの目標金額は積立の目的によって変わるが、例としてセカンドライフ資金で考えてみよう。

夫婦2人の厚生年金の平均受給額はおよそ月額22万円である(厚生労働省『令和2年度の年金額改定について』より)。世帯主が65歳以上の家庭では月々の平均支出は約25万円だ(総務省『家計調査年報(家計収支編)2019年』より)。

65歳から日本人の平均寿命84歳(世界銀行のホームページより)まで生存したとすると、720万円が不足する。つみたてNISAでこの目標金額を達成したときが売却タイミングの適切な時期と言えるだろう。

つみたてNISA(積立NISA)の2つの売却方法

つみたてNISAを売却するときのために、その方法についても考えておきたい。

必要な分だけ売却してつみたてNISA(積立NISA)の運用を続ける

つみたてNISAの運用資金は必ずしも1度にすべて売却する必要ない。むしろつみたてNISAでは全額を売却せずに残りは運用を続けたほうがいいこともある。つみたてNISAをすべて換金して預金口座に預けると、資金がそれ以上増えることがないに等しいからだ。

つみたてNISAは運用資金が減るリスクもあるが、変動を抑えた資産配分でつみたてNISAの運用を続けるなどの工夫はできる。

例えばつみたてNISAで1,000万円を運用したとする。500万円は換金し、残りの500万円は1%の利回りで運用を継続する。つみたてNISAが利回り1%でも3年後には約515万円、5年後には約525万円、10年後には約552万まで増える。

500万円を利回り1%で運用した場合
運用期間 3年 5年 10年
運用残高 約515万円 約525万円 約552万円
(※野村證券「みらい電卓」より筆者作成)

これは積立をせずに500万円の運用のみを行った場合の結果だが、積立も引き続き行えばさらに運用資産を増やせるはずだ。今は長生きできる時代でもあるため、すぐに使わないお金ならすべて引き出してしまわず、一部はつみたてNISAで運用を継続することも検討しよう。

つみたてNISA(積立NISA)を年金のように少しずつ機械的に売却する

つみたてNISAの売却のタイミングを分割することも、運用した資産を長持ちさせる効果がある。上の解説と共通するが、つみたてNISAの資産を運用しながら取り崩すことで同じ金額でも減り方が緩やかになるのだ。

つみたてNISAで貯蓄した1,000万円を継続的に運用しながら毎月5万円ずつ取り崩していくとする。

利回りが0%なら16年7ヵ月で底をつき、1%は18年2ヵ月、2%は20年3ヵ月、3%は23年1ヵ月となる。つみたてNISAで取り崩しと運用を並行することで資産寿命を伸ばせるのだ。同じ1,000万円でも取り崩し期間が伸びれば安心感が変わるだろう。

1,000万円を毎月5万円ずつ取り崩した場合
利回り 0% 1% 2% 3%
取り崩し期間 16年7ヵ月 18年2ヵ月 20年3ヵ月 23年1ヵ月
(※モーニングスター「金融電卓」より筆者作成)

注意点として、つみたてNISAを売却するときはできるだけ機械的に行うようにしよう。つみたてNISAの相場を見ながら売却しようとするとタイミングを図ってしまい、結局売れなくなってしまうからだ。

つみたてNISAの相場に左右されないためには積立と同じように、毎月の日付を決めて売却していくのがいいだろう。金融機関の導入はまだまだ少ないが、つみたてNISAを定期的に自動売却してくれるサービスもあるので積極的に活用しよう。

つみたてNISA(積立NISA)は非課税期間終了後のことも意識しよう

つみたてNISAは一般NISAと違い、新たな投資枠に保有商品を移す「ロールオーバー」はできない。非課税期間終了時は、期間内に売却するか課税口座へ移行するのが現在のルールだ(2019年4月現在)。どちらが得かはその時になってみないとわからない。制度が変更される可能性もあるが、非課税期間終了時の出口戦略についても考えておく必要があるだろう。

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執筆・國村功志
大手証券会社で株式・債券・投資信託などの金融商品販売に携わる。その後、ファイナンシャルプランナーの養成団体やFP事務所を経て、現在は資産形成FPとして活動。個人の資産運用経験も活かし、金融機関や一般の人向けに毎月セミナーも行っている。CFP®、証券外務員一種保有。
大手証券会社で株式・債券・投資信託などの金融商品販売に携わる。その後、ファイナンシャルプランナーの養成団体やFP事務所を経て、現在は資産形成FPとして活動。個人の資産運用経験も活かし、金融機関や一般の人向けに毎月セミナーも行っている。CFP®、証券外務員一種保有。


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