結果としては、前半はゴール前でのこぼれ球を入れられた1点にとどめたので、それほど悪くない出来だったと思います。

しかし、後半開始直後、かなり不明朗なジャッジで長野がペナルティエリア内でハンドをしたとして、ペナルティキックと判定され、PKで1点献上したのは、あまりにも不運でした。

たしかに、ボールに手が触れた瞬間、手は体側から離れていたのですが、敵味方が交錯して見えないところからボールのほうで長野の手に当たってきたので、これは明白にハンドではないと判定すべきだったでしょう。

おまけに、藤野の打った絶妙のフリーキックがゴールポストからほぼ垂直に落ちてきて、敵のゴールキーパーの背中に当たったのに、それでもゴールラインを割れなかったという不運もありました。

同じ場面が100回くり返されたらそのうち97~98回は点になっていたはずのシーンです。今大会屈指のゴールキーパーが運まで味方に付けていたのですから、1点取るのがほんとうに大変なゲームでした。

それでも諦めないなでしこは、途中出場の清家貴子(17)の放ったシュートが弾かれたところに詰めていたこれも途中出場の林穂之香(16)のシュートでやっと1点返しました。ゴールしたボールを抱えて全力疾走でセンターラインのキックオフ・スポットまで運んだ林にも、他のチームメートにも諦めはまったくありませんでした。

10分の追加時間のうち2分が過ぎてからやっと出番が回ってきた浜野まいか(20)は、スウェーデンのプロチーム所属ですから、本来なら大活躍できたところです。

しかし、大会開始直前に肩を痛めてグループリーグ中は治療に専念し、ノルウェー戦では交代を待つうちにノーサイドになってしまったので、今大会ではたった8分間のワールドカップ出場となってしまいました。

それでも、今大会では出番の少なかった若手たちは、先発メンバーと交代メンバーの力の差がもっとも小さいのは明らかになでしこだったと言えるだけの印象は植えつけてくれました。

レギュレーションタイムで同点に追いつけば、交代メンバーの差は歴然としているのでPK戦というやっかいな状態にもつれこむ前に延長30分間の中で日本が勝っていたでしょう。

スペイン相手の準決勝は、今大会のスペインチームには重戦車のようなセンターフォワードはいないので、やはりティキタカサッカーに頼らざるを得ないスペインを難なく負かしていたでしょう。

そして、イングランドとの決勝となると、男女を問わずイングランドのA代表はふつうの戦術では相手チームのほうが有利と認めたときには、古式ゆかしくキックアンドラッシュ戦法で挑んできます。

自陣から漠然と敵陣方向にハイパントを蹴りこんで、2~3人ディフェンスを残してあとは全員で落下点めがけて殺到するのです。とうてい効率的なチャンスのつくり方とは言えませんが、イギリスのA代表は技術や戦術で勝てないと思ったら、迷わずこの戦法できます。

今大会でもまた、イングランドにはヘンプのような重戦車型センターフォワードがいるので、なでしこにとっては決勝戦を戦うにはいちばん苦手な相手となりますが、それをどう克服して優勝するか、ぜひ見たかった場面です。

さらに、男子サッカーの世界でも、イタリアが得意なカテナチオという堅固な守備陣を攻めあぐねているチームや、スペイン型のティキタカサッカーに手を焼いているチームから、本気で5枚フォワードに挑戦してみるかと考えるチームも出て来るのではないでしょうか。

なでしこの前途は洋々

藤野も、浜野もまだ19歳です。このふたりに比べればベテランの風格さえ漂わせている宮沢ひなたでさえ、まだ23歳なのです。基本は23歳以下の選手で戦う男子と違って、女子ではA代表同士が争うオリンピックは来年に迫っています。

そのあとのワールドカップは2027年、どちらも楽しみです。2009年に刊行した拙著で、サッカーで世界の強豪と互角に渡り合うようになるのは、絶対に男子より女子が先だと断言していた私としては、いささか鼻が高いです。

最後に特筆すべきはなでしこ前監督高倉麻子の存在です。育成年代の代表チームでは現監督の池田太同様赫々たる戦果をあげた人ですが、A代表では奮いませんでした。

ただ、大きな国際試合では日本チーム同士のゲームの半分ほども活躍できなかった田中美南や遠藤純を辛抱強く使いつづけたのは彼女の功績で、この我慢が実を結んだのがオーストラリア・ニュージーランド共催の2023年女子ワールドカップだったと思います。 【関連記事】

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編集部より:この記事は増田悦佐氏のブログ「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」2023年8月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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