グループリーグ第2戦 対コスタリカ
計画的にローテーションを組んで主力を休ませる意図もあって、コスタリカ戦の先発メンバーはかなり入れ替えています。
今大会で日本は、ダブルボランチの長谷川唯(14)と長野風花(10)、両ウィング「バック(じつはフォワード)」の清水梨紗(2)と遠藤純(13)と、4人それぞれのポジションでベストと呼べる人材を擁していました。
まあ順当に勝てる相手だったとは言え、2戦目でその4人のうち長野と遠藤の2人を先発からはずして、しかも遠藤は完全休養だったのですから、ほんとうに余裕綽々の戦いでした。
スコアが1対2で負けてしまった準々決勝のスウェーデン戦以外ではいちばん得点の少ない2対0の勝ちだったので、やや苦戦したのかとお考えの方もいらっしゃるでしょう。
でも、宮沢に代わってインサイドフォワードで先発した猶本光(8)の前半25分のミドルシュートといい、その直後の藤野あおば(15)のゴールライン寸前でゴールキーパーのすぐ近くまで切れこんでからの角度のないところでのボレーシュートといい、どちらも今大会のベストシュート候補だったと思います。
ミドルシュートを決めた猶本に、杉田と田中が駆け寄るシーンです。
とくに、藤野のゴールキーパーのすぐ脇を抜けてファーのサイドネットに突き刺さったシュートは、男子A代表であそこまで深く切れこんでから、クロスではなく自分で決めるという決断をできるフォワードがいるのかと思うほどめざましいシュートでした。
というわけで、あとはピンチらしいピンチもなくきちんと試合を終わらせるだけでいい、内容的には圧勝と言えるゲームでした。
今大会で池田太監督がいちばん悩んだのは、長谷川・長野コンビ以外にも猶本、杉田妃和(6)、林穂之香(16)と、他の国の女子A代表なら先発できるボランチのスペシャリストが5人もいたことでしょう。
コスタリカ戦では遠藤の代わりに杉田を左ウィングに入れてそのままフル出場させてまったく問題がなかったのですが、それがのちにスウェーデン戦での先発メンバー選びに微妙な影響を与えてしまったかもしれないと思います。
グループリーグ第3戦 対スペイン今大会最高の戦術的勝利を記録したのが、ともに2勝で首位突破をかけて激突したグループリーグ最終戦、スペインとのゲームでした。
スペインの女子A代表は、男子とまったく同じようにピンボールマシンのように縦横自由自在にショートパスでボールを回して、相手守備陣を混乱させて得点を量産するティキタカ・サッカーでは非常に完成度の高いチームです。
そのスペインに対して、なでしこは次の先発メンバーで臨みました。
長野とともにチームの心臓となっている長谷川とインサイドフォワードとして絶好調だった藤野を先発からはずすという、これまた大胆な選手起用でした。結果は4対0という想像を超えた圧勝です。
でも、冷静に考えればフォワード5枚という日本のフォーメーションで敵のフィールドプレイヤー全員を自陣に引きずりこみ、女子としてはまぐれ当たりはあっても狙ってゴールを取れる距離ではないところでボールを回させておくのは、じつに理にかなった戦術です。
相手のセンターバックの後ろに広大なスペースが広がっていますから、どこで球を奪っても味方フォワードが先に駆け抜けることのできる角度でスルーパスを出しやすいからです。
たびたび引き合いに出しますが、男子A代表の場合、そういう必殺のスルーパスをもらっても、慌てて球が足に付かなかったり、力んでシュートをふかしてしまったりが多いのですが。
で、スペイン女子A代表としてはおそらく味わったことがないだろう0対4の屈辱的なスコアになった頃のスペイン選手の茫然自失状態の顔と、対照的に喜びに沸き返るなでしこたちです。
この試合について「ボール支配率が23~24%なのに勝てたのは、ひたすら守り抜く消極的な戦術で、相手のミスパスを待つカウンターがたまたまうまく行っただけ」という見方も出ていますが、まったく違います。
もともと日本における第1人者である風間八宏も「ゲーム時間中ずっとボールを持っていれば、オウンゴールでもしないかぎり、最低でも0対0で勝ち点1を取れる」と言っているとおり、ボールコントロールオフェンスというのは守備的な戦術なのです。
その守備的な戦術に対して、なるべく敵のディフェンスラインを押し下げるという戦術で対抗すると、自在なパス回しですり抜けられて失点することが多くなるのです。
だから、なるべく自陣近くに敵を引き寄せておけば、たんに俊足というだけではなく、何回も上下動をくり返せる持久力のあるフォワードを5人揃えているので、いつかはボールダッシュとディフェンダーのいないところへのスルーパスが出せるのです。
池田監督はその上で、もうひとつ用心深い選手起用もしています。
オフサイドを避けるためには左右両側を見ていなければならないので精神的な疲労度の高いセンターフォワードは90分をひとりで戦いきることはさせず、ほぼ同じ力を持つ田中美南と植木理子(9)とのあいだで必ず途中交代をしていたのです。
理にかなった戦術と選手起用が招いた圧勝と見るべきでしょう。
ラウンド16 対ノルウェーこの負ければあとがないゲームでは、池田監督は現状でのベストメンバーを先発させました。以下のとおりです。
前半15分に宮沢のクロスをはじきだそうとしたノルウェーディフェンスがオウンゴールをした5分後、コーナー付近からのクロスに高い打点のヘディングで今大会最初の失点を喫したのですが、チームに動揺はまったくありませんでした。
後半開始直後ノルウェーゴール前の混戦から、敵ディフェンスの緩いバックパスを右ウィング清水がかっさらって落ち着いて勝ち越しシュートを決め、終盤には宮沢のダメ押しゴールもあって、3対1でベスト8に進出しました。
選手交代が、毎試合必ずやっている田中から植木へのセンターフォワード同士だけだったことからも、チーム全体の安定性がうかがえます。準々決勝には相手チームより1日多く休養を取って臨めるので、次もまたこのメンバーが先発だろうなと思っていたのですが。
準々決勝の先発メンバーは、ちょっと驚きでした。
清水とともに好調だった遠藤を使わずに、本職はボランチの杉田を左ウィングで先発させたのです。
ノルウェーに1点ヘディングで取られた反省から、これまでずっと成功してきた3バック、ダブルボランチ、5枚フォワードから、キックオフ時点での陣形は同じでも、実際には3バック、トリプルボランチ、4枚フォワードに変えて守備強化を図ったのでしょうか。
最近のトップレベルでのサッカーは情報の収集・分析をかなり緻密にやります。スウェーデン陣営は、杉田が遠藤ほど粘り強くタッチライン沿いをアップダウンできるはずはないと見て、前半の前半徹底的にスウェーデンから見て右、なでしこ側から見て左のコーナーめがけたロングボールや、タッチライン沿いのドリブルを仕掛けてきました。
それに加えて、センターバックの中心、熊谷紗希(4)が、敵のセンターフォワード、ブラックステニウスとの走り合いで、なんとかボールと相手とのあいだに体を入れることには成功したものの、足元のコントロールがちょっと乱れて、フリーでシュートを打たれてしまいました。
あの近距離でフリーな態勢でシュートを打ってもゴールマウスの中に入れることさえできないから大丈夫と思えれば良かったのですが、その後ずっと窮屈な動きになってしまいました。
この大会でなでしこのフィールドプレイヤーとしてフル出場したのはチームキャプテンの熊谷ひとりだけです。それだけ監督からもチームメートからも信頼が厚いのは事実です。ただ、責任感が強すぎるとその空回りが怖いところもあります。
せめてグループリーグのうちに、後半だけでもベンチから仲間のプレーぶりを見て、自分ひとりで責任を背負いこまなくても大丈夫と思える期間をつくってあげていたら、もっとのびのびやれただろうと思います。