行政書士は「街の法律家」と言われる。その言葉どおり、日常生活で起こった小さな問題をいきなり弁護士に相談するのは気が引けるのか、「とりあえず行政書士に相談してみようか」と考える人も少なくないようだ。
筆者は以前、「マンションの上(の階)に住んでいる人がうるさいのですが、どうしたらいいのですか?」という相談を実際に受けたことがある。日常の些細なことだが、今回は「隣人の騒音」について考えてみよう。
隣人トラブルと行政書士の仕事
最近頻繁に、「ゴミ屋敷」の問題がテレビ等で報道されている。これは、隣人トラブルの際たるものだが、私人間のトラブルは、両者の話し合いに委ね、基本的に自治体や警察、国は介入しないことが大前提だ。いわゆる「民事不介入」と呼ばれるものである。
行政書士は、警察署へ提出する告発状、告訴状の作成は別として、刑事関係の業務をすることはない。一方で、両者の間で協議をした結果、その合意内容をまとめた示談書を作成することはできる。これは行政書士の業務である「権利義務に関する仕事」の一つで、民事に関する仕事だからだ。
冒頭に紹介した「マンションの上に住んでいる人がうるさい」とご相談されたAさん(仮称)の行動は、決して的外れではない。
もちろんAさんの代理人として、私が隣人の方にAさんの主張を伝え、示談交渉をした場合、「非弁行為※」として弁護士法に違反するが、あくまでもAさんは隣人との「示談」を前提として話し合いをしたい、ついてはどうすればいいかを私に相談したまで。
※「非弁行為」…弁護士でない者が、報酬を得目的で法律事件に関して代理人となり、相手方と示談交渉等を行うこと。
隣人の騒音にどう対処するか?
ところで、Aさんからの相談に対して、筆者は3つのことを申し上げた。
まず、「マンションの利用規約はどうなっていますか?」ということ。ご存じのように、それぞれの賃貸物件には、日々生活する上で守らなければいけない決まりがある。多くの場合、マンションの「賃貸借契約」を結ぶときに、仲介業者等から説明があるはずだ。
その中には、部屋(物件)の使い方、共用部分(玄関、廊下等)の使い方、ゴミ・廃棄物の処理方法、禁止事項(ペットの飼育等)、そして一般的遵守事項がある。特に最後の項目である一般的遵守事項では、テレビや楽器等の音量や生活音(ドアの開閉、話し声等)に関する注意が喚起されている。
「利用規約」に「音に関する遵守事項」が記載されていることを確認した上で、2つ目に申し上げたことは、「マンションの管理会社に相談してください」ということだ。
いきなり、当事者(隣人)に物申すことは、トラブルの種をまくことになる。そこで、1~2週間位様子を見た上で、「何日の何時頃に、どのような音(声)がしたか?」ということを記録に取り、そのことを管理会社の担当者に伝え、何らかの対策を取ってほしいとお願いをする。その際に、担当者の名前を必ず確認しておくのだ。
ただ相談を受けた担当者が、騒音の源である隣人に直接注意することは、ほとんどの場合、ない。マンションの掲示板等に注意喚起を促す張り紙を貼る程度である。このことで、直ぐに効果が表れるかはやや疑問だが、それでも「隣人の音がうるさい→管理会社(担当者)に伝える→担当者が注意喚起する」と、最も筋が通った方法だろう。
3つ目に伝えたことは、それでも改善されない場合、マンションの大家さんに現状を伝えてはどうかということだ。「賃貸借契約」では、借主と大家さん(貸主)が直接契約をしているはずなので、借主が隣人の騒音のために快適な生活が送られない、隣人が決まりを守っていないということは、最終的に大家さんの責任ということになる。
ただ理屈はそうだが、多くの場合「マンションの管理は管理会社に任せている」とする貸主(大家さん)がほとんど。賃貸借契約、マンションの管理等の煩雑な事柄に直接関与したくないからこそ、管理会社に依頼しているという側面もある。
この方法は大家さんと面識があるなどの特別な場合を除いて、避けたほうが賢明だろう。
隣人の騒音について、対策と言えるものは先に掲げたような方法だ。結局、これと言った即効性のある方法はないのが現状である。
管理会社の担当者に、1回相談しただけでは隣人騒音が解消されることは、まずないと思うので、コンスタントに連絡、相談されることをお勧めしたい。
ただし問題が解消されないからと言って、直接隣人にクレームを言うことだけは避けたほうがいい。場合によっては、想定外の事態に発展する可能性がある。
文・井上通夫(行政書士)/ZUU online
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