8月15日、世界的に著名な医学雑誌CELLの姉妹誌「Cell Reports Medicine」に以下の論文が掲載された。

論文の概要は以下の通り。

【解説】BCG接種が新型コロナを9割予防する:米研究で判明
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

大まかに翻訳するとこうなる。

  • 1型糖尿病患者144人をBCG接種群96人と非接種群48人にランダムに振り分け、接種群にはBCG日本株【Tokyo-172】を3回接種した。
  • 2020年1月に接種開始し2021年4月までの15ヶ月間を観察した結果、新型コロナ感染がBCG接種群で圧倒的に少なかった。(9割以上の感染予防効果)
  • 新型コロナ以外の多くの感染症に対しても感染予防や症状軽減効果が見られた。
  • 効果が出るまで1〜2年かかるが、その効果は数十年続くだろう。

ファクターXが解明された?

新型コロナの登場以来、

「欧米とアジアでは新型コロナの感染や死亡率が桁違いの差が出ているのはなぜか?」

と言う疑問が呈されてきたが、今回の論文でその有力な候補として「BCG仮説」が浮上してくることが予想される。

なお、欧米各国がここ数十年でBCG接種を中止、もしくは一部の層のみに接種していたのに対し、アジア各国は例外なくすべての国で乳幼児にBCG接種を行っている。

確かに昨今、日本や韓国の感染者数が増大し一時的に世界一の感染者数になったりしたため、こうしたアジアの優位性に対する議論は影を潜めていた印象がある。しかし、やはり総死亡者数などの蓄積データでは欧米とアジアでは下図の通り、圧倒的な差がついていると言わざるを得ない。

【解説】BCG接種が新型コロナを9割予防する:米研究で判明
(画像=出典:札幌医大 フロンティア研 ゲノム医科学、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

約3年間、一貫して被害が小さいということを考えると、やはりそこには何らかの要因が存在していると考えるのが自然だろう。

ノーベル賞を受賞した山中伸弥氏はこの差異の原因を「ファクターX」と呼び、その謎についてはマスコミや関係各所で語られてきた。

ファクターXとして考えられてきたのは主に以下のようなものだ。

  • 高いマスク着用率仮説
  • 真面目な行動自粛・休校措置の効果説
  • 食生活や生活様式の違い説
  • 交差免疫仮説(アジアでは過去に新型コロナ類似の感染症が流行していた?)

その有力な仮説の一つとして、

  • BCG仮説

があったわけだが、今回の論文でそのBCG仮説が一層説得力を持つことになったわけである。

なぜBCGがコロナに効くのか?

そもそもBCGというものは、結核菌に対するワクチンである。なぜ結核のワクチンが新型コロナに効くのだろうか。

実はBCGにはかねてから「訓練免疫(trained immunity)」としての効果が期待されていたのである。大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授の宮坂昌之氏は言う。

BCGには自然免疫を高める効果があります。trained immunity(訓練免疫)といって、その効果は骨髄幹細胞にエピジェネテック(非遺伝的)に記憶されることが近年明らかになっています。trained immunityは、抗ウイルス活性を高めます。

新型コロナワクチンがコロナウイルスに特化した抗体を産生する(獲得免疫)に対し、BCGワクチンは「抗体」ではなく、全般的なウイルスや細菌に対処する「自然免疫」を強化(訓練免疫)する、ということだ。

通常で考えれば、コロナウイルスに特異的な「抗体」のほうが効果がありそうなイメージだが、今回の論文は多くの細菌やウイルスに効く「BCGによる自然免疫強化(訓練免疫)」でも9割の予防効果があったということを示している。そしてこの研究は、日本などBCGワクチン(特に日本株)接種国の新型コロナ被害の小ささともが合致するものである。

BCGワクチンが古くからある「非常に安価」で「副作用の少ない」ワクチンであることを考えれば、この論文の重要性は計り知れないものとなるだろう。