目指すのは誰も体験したことのない未知のゾーン

芸術性とは、一瞬で見た人に衝撃を与えるわかりやすさと、複雑さが奇跡的なバランスで共存することであると断言するMANJI氏。そして、今回のインタビューのテーマである想像力と探究心は未知の分野にこそ向かうべきだという。話はいつの間にかNASA(アメリカ航空宇宙局)の話題にーー。

「月面にモノリスを建てるぐらいサクッとできるんじゃないか」金属彫刻家MADARA MANJIの飽くなき探求心と終わりなき挑戦(後編)
(画像=撮影:編集部、『TOCANA』より引用)

MANJI  NASAはまだ発見されていない天体を探したり、観測されていない現象を調査したり、未知に対する研究をずっと行っていますよね。たとえ既知のものでも、どこかにまだ未知の理論性があるんじゃないか、因果関係が隠れているんじゃないかと長年調べ続けている。

それこそ、新感覚を得るためにまだ誰も到達したことのない深さまで深海に潜るような、限りない好奇心の話ですよね。これが、想像力と探究心が向かうべきゾーンだと考えています。

――ご自身の活動においても、そういった方向性を意識することはありますか?

MANJI  未知なる新感覚を体感できる次元を目指していますね。俺はNASAのように新しい星を発見したり、月に行ったあと今度は火星に行ってみてーなとか、そういう感覚でまだこの世で誰も作っていないアート作品を作り出したい。

ただ、これはある種の問題も孕んでいて、もしそういう作品を作ることができたとしたら、その途端に既存の感覚値のものになるじゃないですか。たぶん、俺は完成したその日のうちに、その作品に興味を持てなくなると思うんです。未知を求めて挑戦しているわけだから、それが既存のものになった瞬間、そこから新しい未知が生まれて、今度はそれをさらに追っていくっていうことを繰り返していくような気がします。

NASAが月面着陸に成功した後、気が済んで解散したのではなく、次はもっと遠い星を目指したように、きっと人間の欲求は尽きることがないんです。それは自分にも当てはめることができるわけで、俺はアーティストとしてそういうことがしたいんです。

今の自分じゃ手の届かない未知に挑戦して、いつか突破することができたら、その向こう側を目指して……っていうこと繰り返していきたい。だから、作品を作るうえで何かを終わらせたいとか、達成したい目的みたいなものは実はなくて、それより常に進んでいきたいっていう思いしかないっすね。

「月面にモノリスを建てるぐらいサクッとできるんじゃないか」金属彫刻家MADARA MANJIの飽くなき探求心と終わりなき挑戦(後編)
(画像=撮影:編集部、『TOCANA』より引用)

――ご自身の活動にも満足したことがないという感じですか?

MANJI  ないですね。子どものころからものを作るとかって行為が苦手で、このアトリエもそうだし基本的に作家活動全般が大っ嫌いなんです。面倒くさいことが多いし、難しいことばっかりだし、やってて楽しいとか快適って感覚はほとんどないです。むしろその逆が多くて、達成感や満足感は欠片もないけど、悔しさや不満は常に感じています。

だから、動機が楽しくありたいとかだったら最初からこの道は選んでないんです。新感覚の向こう側を目指して活動を続けていくなかで、自分は一体何にタッチできるのか、どんなことを体感できるのか。それだけがもう気になってしょうがないから、過程や結果には興味がないんです。別にそれが楽しくて快適なものでもいいと思うし、過酷で何かを失う過程だったとしても全然アリ。

そりゃしんどいときもあるし、アーティスト活動っていうのは博打じゃないけど、安定した生き方でもないので、正直キツい場面も多くて。でも、別に豊かなものでも寂しいものでも楽なものでも何でもいいっすね。あんまりそこに興味はないんです。

現段階ではまだ人類が体感し得たことのない何か。それが一体何なのか想像さえつかないけれど、誰もまだ踏み入ったことのない感覚を物質に落とし込んで表現することができたとしたら、それは本当に素晴らしい作品になると思う。

「月面にモノリスを建てるぐらいサクッとできるんじゃないか」金属彫刻家MADARA MANJIの飽くなき探求心と終わりなき挑戦(後編)
(画像=撮影:編集部、『TOCANA』より引用)

MANJI  『East-West/West-East』には度肝を抜かれたけど、現代アートの世界に身を置くのであれば、既存の概念を超えることを目指していかないと。それを達成したときに、世界一だと胸を張って言えると思うんです。ライト兄弟は空を飛んだ点においてナンバーワンでしょ。初めて月に行った宇宙飛行士も新しい数式を発見した数学者も、最初に何か特別な感情を抱いた人たちも全員がそうだと思う。自分も芸術という分野でそういうことを実践していきたいんです。

――MANJIさんの場合は、何を以て自身が未知の境地に辿り着いたことを確信することができると思いますか。

MANJI  アートの価値ってすごく難しくて、売上や知名度とか、人によって違うと思うんですけど、俺は完全に主観ですね。リチャード・セラを超える作品を作れたとか、一歩先を行く作品を生み出すことができたという確信が持てれば、そのときに越えたと思えるはず。

でも、未知のことってタッチした瞬間に既知になるから、いくら追求しても永遠になくならない課題なのかもしれないです。皮膚の外側には宇宙っていう無限があるけど、一方で内側には想像力という無限があって。想像力と探究心がある限り、いつまでも終わることなく、続いていくような気がしますね。だからこそ、面白いんです。

「月面にモノリスを建てるぐらいサクッとできるんじゃないか」金属彫刻家MADARA MANJIの飽くなき探求心と終わりなき挑戦(後編)
(画像=撮影:編集部、『TOCANA』より引用)

ーー最後に、今後の活動について。今考えている計画などがありましたら、ぜひお伺いさせていただきたいです。

MANJI  やりたいことはいくつもあるんですけど、そのひとつに月面に自分のアート作品を建てたいという願望がありますね。

ランド・アートと言って、特定の土地に作品を設置する美術のジャンルがあるんですけど、俺は「人間とは何か?」をテーマに作品を作っているので、人間の活動領域のあちこちに人間性のアイコンとして自分の作品を建てまくりたい。人類が月面に足を踏み入れたことがあるのであれば、月にも作品を建てたいんです。

たとえば、『モナ・リザ』ってアートの代名詞的存在で、知らない人はそんなにいないと思うんですけど、俺は実物を見たことがないし、実際原物を見たことがある人って結構少ないと思う。やっぱりアートってそれぐらい認知されづらい業界なんですけど、月は世界中の80億人全員の視界に入るじゃないですか。

作品を確認するには高性能な天体望遠鏡が必要とはいえ、すべての人間が視界に入れたことのあるアートはまだこの世に存在していない気がして。人間を象徴するアート作品が、われわれが拡張した活動領域の月にまで設置されていて、全人類が視認することになる作品とか俺はすげーやりたい!

こういう話をすると、いろんな人に無理だとかよく言われるんですけど、大金さえあれば叶う話なら余裕じゃないですか。むしろ、たった数百億円でこのプロジェクトのスポンサーにつく人がいたとして、その利益を考えたら全然あり得ない話じゃないと思う。この記事がきっかけになって突破口が開けるかもしれないし、未知の挑戦をしたいと思った人がいたらぜひご連絡ください。誰もやったことのないことを一緒にやりましょう。

案外、これぐらいのことならサクッとできるんじゃないのかな。この程度のことは、できないんじゃなくて、実現するには相当な努力と運が必要っていうだけの話で、決して不可能なんかじゃない。かといって、月面にモノリスを建てることが最終目標なわけではなくて、こんなのアイディアのひとつに過ぎないので、やりたいことは全然尽きない。俺は想像力と好奇心に従って、どこまでも挑戦し続けていきたいです。

「月面にモノリスを建てるぐらいサクッとできるんじゃないか」金属彫刻家MADARA MANJIの飽くなき探求心と終わりなき挑戦(後編)
(画像=「Ambivalence #11「 奥にある扉の向こう側 」」(2022年) 撮影:AKIKO BUSCEMI、『TOCANA』より引用)

【MADARA MANJI展覧会情報】
グループ展
『Synergy』
【開催期間】2023.08.02 wed. – 08.13 Sun. 月曜日定休 11:00 – 19:00
【会場】YOD TOKYO
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前4-26-35

「月面にモノリスを建てるぐらいサクッとできるんじゃないか」金属彫刻家MADARA MANJIの飽くなき探求心と終わりなき挑戦(後編)
(画像=『TOCANA』より引用)

■MADARA MANJI
京都の職人に弟子入りし金属加工の基礎技術を学び、数年間の修行の後に独立。独学で杢目金の技術を習得し、その技術を用いた立体作品の制作を行う。
Twitter:@MadaraManji
Instagram:@madara_manji

文=浅香麻亜弥(トカナ編集部)

提供元・TOCANA

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